ウサギノネドコ
【ウサギノネドコ】 京都・二条駅から徒歩7分の場所にある改装した京町家で、2階は1日1組限定の素泊まりの宿、1階は自然の造形物を扱った雑貨店。 伝統的な京町家とモダンなインテリアを融合した施設で、その精緻な世界観と、デザイン性の高さに注目が集まっている。 http://usaginonedoko.jp (※写真は左から吉村順子、吉村紘一、小野寺洋毅) |
(2015年1月 京都「ウサギノネドコ」にて)
3人の京都の暮らし
清水 | 今日はいい天気で良かったなあ。 ちょうど昼頃に京都に着けそうだ。 おお・・さすが洋毅。 これは楽しみだ。 (京都駅から地下鉄烏丸線で烏丸御池へ移動) おーい。 |
紘一 | 明けましておめでとう。 |
清水 | 順子はどうしたの? |
紘一 | 先に着いて、店の中に入ってる。 |
洋毅 | この店はピラフが有名みたいでさ。 |
清水 | というか、ランチのメニューはピラフだけなのかな? |
洋毅 | ん!? ああ、そうだピラフ一択だね。 |
順子 | スゴいよね、こういう、はっきりしたお店。 |
清水 | 迷う必要がなくていいね。 じゃあ、ピラフを4人前で。 |
洋毅 | 最近、こういうカフェに来ると、お店の人が何着てんだろうとか、そういうことが気になっちゃうんだよね。 |
順子 | わかるわかる。 |
清水 | そうか、自分でカフェをやるとなると、視点が変わってくるよね。 |
洋毅 | あと、この店、あったかいね。 |
順子 | そうそう、そういうことばっかり考えちゃうでしょ。 なぜだろう?とか。 アラジンのストーブが、やっぱりいい。 |
紘一 | じんわり来るんだよな。 |
清水 | 洋毅は京都に引っ越して3ヶ月になるね。 住んでみて、どう? |
洋毅 | 暮らしやすいですよ。 |
順子 | あ、ほんと? 良かった。 |
洋毅 | まあ、都会じゃん。 不便をすることは少ない。 お医者も、すぐ近くにあるし。 老人みたいなこと言ってるけども。 |
清水 | いや、お医者は重要だよ。 |
洋毅 | で、コンビニも多いし、 クリーニング屋もあるし。 |
紘一 | (笑)どこにでもあるだろ、それ! 京都ならではのポイントがあるでしょ? |
洋毅 | なにがいいって話しでいうと、サイズ? ちょうどいいよね。 チャリがあれば端から端まで30分ぐらいだし。 |
順子 | 京都の真ん中へんは平らだからね。 |
清水 | 順子はもう、すっかり慣れた? |
順子 | 3年いるからね。 もう逆に、東京に住めないかも。 |
清水 | そこまで慣れちゃったか。 |
洋毅 | やっぱり京都はいいって感じでしょ? |
順子 | そう、洋毅さんと同じ感じ。 理由が医者ではないけど。 実家が東京っていっても八王子市だから、飛行機乗るにも新幹線乗るにも1時間ぐらいかかるわけ。 それと比べると、全部が30分で済むよね。 |
清水 | そうだよなあ。 京都にいたほうが交通は便利だろうね。 |
順子 | 友達も、みんな自転車圏内だし。 前なら、新宿まで出ないと友達にも会えなかったけど。 |
紘一 | つながりができてくるよね。 長くいたからこそ、長く築きあげてきた感じのつながりが出来てきてる。 |
順子 | そうだね。 継続して、会う機会があると。 |
紘一 | 1年ぐらいだとまだ、友達って言えるのかな?ぐらいだけれど、3年ぐらい近くにいて定期的に会っていると、友達って感じになってくるね。 |
清水 | 去年、洋毅がまだ京都に移る前、ウサギノネドコに行くことを決めた頃に、話しを聞きに行ったことがあってさ。 その時の話しがとても面白かったんだよ。 |
順子 | 洋毅さんに声をかけたのって、家で飲んでた時だよね? |
紘一 | 電話したのは、そうだね。 |
清水 | その時は、どのぐらい本気だったの? |
紘一 | えーとね、7割ぐらい本気だったね。 |
洋毅 | え!? 3割冗談だったの? |
清水 | いや、冗談ていうか、まださぐりを入れてる段階なわけでしょう。 |
紘一 | そう、3割は、そうは言っても移住をさせるわけだから。 プラスやっぱり、怖かったよね。 |
清水 | そうだよなあ。 |
紘一 | 人を雇うっていうことの怖さとか、人を巻き込むことの怖さだよね。 言ったものの、OKされたから、その後ちょっと不安になった。 |
清水 | (笑)それはあるだろうな。 大丈夫かほんとに、って。 |
洋毅 | OKされてうろたえるってのも面白い。 |
紘一 | そうそう。 声かけときながら(笑)。 |
清水 | それは、焼きとん屋行った時のこと? |
紘一 | そう、焼きとんの時。 |
順子 | その時は、飲んで盛り上がって、 その後じゃない? |
清水 | 酔いが醒めた後に、 「これで良かったのかなあ」って? |
洋毅 | まあでも、それ以前に、わざわざ京都から話ししに来てる時点でね、やっぱり覚悟決めて来てるんだろうって思ってたけど。 |
紘一 | うん、だからまあ、ほんのちょっとの不安、ってぐらいだったと思うけどね。 |
洋毅 | 面白いよね、こうやって、両方から話しを聞くと。 |
清水 | 面白い。 すごいことだよなあ。 学生じゃないからね。 続けてきた仕事辞めて、移住してくるってのはスゴイよ。 |
洋毅 | でも、頭の中は、学生と変わってないかもしれない。 この前、感覚が分かれたところだったんだけど、俺はこの前卒業したばっかりだと思ってるんだよね。 紘一と順子はそんなことないって言うんだけど。 |
清水 | わかるわかる。 オレもそう思ってる。 |
洋毅 | あっきーもこっち側の人間か。 |
紘一 | だって俺、京都に来て3年になるけど、もう10年以上経った気分だよ。 |
順子 | うん、毎日が過ぎるのが早くて。 |
洋毅 | ああ、それはわかるな。 それ言うと、俺もこっち来て3ヶ月なんだけど、1年ぐらいいるような気がしてる。 |
清水 | やっぱり、毎日同じパターンの生活を繰り返してるのと比べると、時間の密度が変わってくるだろうね。 |
洋毅 | そう、同じ一日の繰り返しってないんだよね。 毎日何かしら新しい発見があるし。 |
紘一 | そうだね。 いろんな事件があるしね。 |
清水 | 事件あるんだ!? |
紘一 | いろんなレベルの、いろんな予期せぬことが起こるよね。 ジェットコースターに近い。 |
清水 | それは、いい職場だわ。 |
紘一 | 面白いよね。 人生って面白いよなあって思う。最近とくに。 トラブルも含めて楽しいと思えるようになってきた。 |
尖りながら拡大する
洋毅 | じゃあ、そろそろ、ウサギノネドコに移動しようか。 |
紘一 | あ、そうする? じゃ、先にチャリで戻ってるよ。 (烏丸御池から西大路御池に移動) |
順子 | この、右側の建物が、 今度カフェをオープンする予定の場所。 もちろんこれから改装するけどね。 |
清水 | そうか。 広さが今の倍になるってことなんだなあ。 |
紘一 | 上の部屋セッティングしたから、2階に上がろうか。 |
清水 | 紘一は、人を増やそうっていうことは、どのぐらいの時期から考えてたの? |
紘一 | 少ない人数のままだと、手も行き届かないし、このままガリガリ自転車まわしてるような感じはまずいな、っていうのがあって。 それで洋毅に声かけたんだよね。 |
清水 | うんうん。 |
紘一 | 洋毅と一番最初に、今後のビジョンを話した時、「俺を呼ぶということは、まずは売上10億っていうのをひとつの目標として考えるよ」って彼が言って。 |
清水 | おお! |
紘一 | 「おお!マジか!」と。 10億とか、想像したこともねえなーと思って、それが、俺の中でかなり衝撃で。 「世の中の影響力を持った会社を考えてみてごらんよ。つまり、売上規模が世の中への影響力だ」と言われて。 |
清水 | なるほど。 |
紘一 | その後じっくりと考えて、たしかにそうだな、って俺の中で消化されていったんだよね。 それ以降、ずっとその話しはしてるんだけど、本来持っていた強いこだわりとか思いとかが無くならないようにしつつ、「尖りながら拡大し続ける」っていうのは、僕らのひとつのテーマだよね。 |
清水 | 拡大しながらも、丸まらないようにするんだな。 |
紘一 | 今までは洋服重ね着しまくって、身動き取れなくなっている感じだったんだよね。 つまり細かい仕事も含めて自分で抱えちゃってた状態なんだけど、それを今は、一枚一枚はがしていってる感じだね。 洋毅が再整理してくれる中で、僕が今までやってきたことは手放さないといけないんだなって感じてる。 |
清水 | そうか、オレ、紘一が普段どんなことしてるのか知らなかったから、そこまで着込んでる状態だったとは知らなかったよ。 |
順子 | 今までは、そこまでやらなくていいってことも全部、私たちでやってたもんね。 |
紘一 | だから、やりたい思いを残しつつも、はがしていくことが大事かなとは思ってる。 それは、洋毅に求めてたことではあるよね。 無理やりはがしてもらわないと、自分からはなかなかはがせないから。 |
洋毅 | 無理やりはがした後、また、違うものを着せてるんだよ。 |
清水 | ぶははははは! |
紘一 | (笑)それはあるよね。 前より着てるものが重くなってるよ、って感じはする。 |
清水 | 今まで自分では気づかなくてやってなかったことも、やろうとしてるってことだね。 |
紘一 | そうだね。 |
清水 | それはやっぱり、新しいメンバーが加わったことの化学反応だよなあ。 |
紘一 | まず経営っていう視点が自分にほとんど無かったしね。 今だってまだまだないんだろうけど、人を巻き込んでやってる以上、会社は何とかしないとっていう責任は感じるよね。 あと洋毅は、経理の仕事をやってたから、心強い。 |
清水 | あ!そうだったの? |
洋毅 | そう、こう見えて、経理やってたんだよ。 新卒の時に3年。 |
紘一 | 洋毅が来て、きちんと数字を見れる人が来てくれたことで、僕もそういう見方をしようというふうに、少なくとも意識はしてる。 |
清水 | そうだよなあ。 物を作る視点と、経営の視点と、なかなか、同じ人が同時には持てないよね。 |
紘一 | そうだね。 そういう意味では、いいバランスだと思う。 僕が出来ない苦手なことをやってもらってる感じはある。 人が多くなることで、経営的視点とか、今まで自分が苦手としてたことをやらなきゃっていうプレッシャーもあるんだけど、より尖ったものを作れるとか、出来ることが大きくなっていくっていうワクワク感のほうが今はあるかな。 |
清水 | プレッシャーもある? |
紘一 | 洋毅さんの無言のプレッシャーがあるんですよ。 圧倒的なスピードを求めつつ、細部までクオリティーを求めよう、っていうことをウサギノネドコでは大切にしようと決めているから。 |
洋毅 | まあ、言うても、そんなでもないでしょ。 そんな俺、夜も眠れないほどプレッシャーかけてないでしょ。 |
紘一 | いや、まあ、眠れないまではないけど。 |
順子 | 夜は疲れて寝ちゃってるしね。 |
紘一 | いいプレッシャーだよね。 それがないと、どうしてもだらけるし。 ウサギノネドコのショップなんてさ、ある意味、博打みたいな店だから、すごい売り上げがあがる日もあれば、今日は何も売れてねえわ、みたいな日もあるわけ。 |
洋毅 | 言ってしまうとね。 |
清水 | 言ってしまうと? |
洋毅 | 店終わってレジ締めて、「今日0円です」みたいな日もあります。 ありますよ、言ってしまうと。 |
清水 | ぶははははは! |
紘一 | 前まではそれでも別にいいかなって思ってたけど。 |
洋毅 | 思ってたのか。 |
紘一 | 今は、さすがになんとかしないとなってプレッシャーを感じながらやってる。 そういうことを当たり前にやりながら、ちゃんと足元を固めつつ、新しいことをやっていこうって感じかな。 |
思いがロケット
清水 | そもそもの話しなんだけど、 最初、紘一が「京都で宿をやるんです」って言い始めた時の、順子の印象ってどうだったの? |
順子 | 私も面白そうだと思ったし、「やっちゃえやっちゃえ」っていう感じだったね。 あんまりリスクを考えないから、いいんじゃない、みたな気になっちゃうよね。 |
紘一 | うん、順子がそう言ってくれたのは、独立した大きなきっかけだったよね。 俺もどっちかっていうと「やっちゃえやっちゃえ」で、ふたりとも「やっちゃえやっちゃえ」だから。 |
順子 | そう、だから、洋毅さんが必要なのよ。 |
清水 | アクセルとアクセルの組み合わせだから、ブレーキを踏む人がいないとなのか。 |
紘一 | いや、ブレーキじゃないんだよなあ。 |
順子 | ハンドル? |
紘一 | うん、そう、いや、でも、うーん。 |
洋毅 | カーナビ? |
紘一 | あ、カーナビかな? でも、なんだろう。 |
清水 | チャイルドシート? |
洋毅 | ちょっといったん、 車にたとえるのやめようか。 |
紘一 | まあ、よりアクセルを踏むために、ちゃんと足元を固めてくれる存在っていう感じかな。 |
順子 | そうそう。 |
紘一 | ちょっと前ぐらいから、軽自動車にロケットエンジン積んでるような感覚なわけ。 アクセル全開で、バーって走るから車体がぶっ壊れていくんだけど、その車体をトンカチで直しながら走っている感覚。 |
清水 | (笑)マンガみたいだな。 |
紘一 | 俺がアクセルを踏んでるところを、洋毅が「待て待て」っていいながら車を修理してる、っていう。 このたとえどう? 車で言うと。 |
洋毅 | まあ、そういうところもあるねえ。 |
順子 | そうだね、同じ方向を向いて、一緒に走ってるからね。 決してブレーキではない。 |
紘一 | 俺はだから、軽自動車をちゃんとロケットに変えようと思ってるんだね。 |
清水 | そうか、いったん修理に出すんじゃなく、走りながら直していこうと。 |
紘一 | そうそうそう。 |
洋毅 | そうだね、ベンチャーだからね。 止まってる余裕はなくて、走りながら何でもやっていくしかない。 |
清水 | 軽自動車にロケット、のたとえは面白いなあ。 |
紘一 | ロケットは何だろうね。 まあ・・「思い」とかなんだろうね。 |
清水 | 「思いがロケット」、いいねえ! 洋毅が好きな、ポエムの世界だね。 |
洋毅 | ポエマー? |
紘一 | ポエミングしちゃう? |
清水 | オレ、そのギャップが面白いと思っていて。 ウサギノネドコの空間って、オレのイメージとしては古道具屋に近いものがあって、まあ、ポエムじゃないんだけど、ゆったりとした時の流れ、みたいな感じなんだよ。 |
紘一 | なるほどね。 |
洋毅 | 外からはそういうふうに見えるんだな。 そうかもね。 |
清水 | 博物学とか考古学って、コツコツやってるようなイメージで、ベンチャーとはかけ離れてるじゃない? |
洋毅 | まあ、今あるようなスタートアップの会社とは真逆にあるような、アナログな方向だよね。 |
清水 | そうそう、そのギャップだよ。 |
紘一 | 趣味の延長みたいな店だったからね。 だから、そこはチャレンジで、洋毅がやるって決めたように、今まで考えてなかった「規模の拡大」っていうことに、俺もスイッチが入ったところだね。 |
清水 | なるほどなあ。 |
紘一 | 僕らのビジョンとして、自然の造形美を楽しむという行為が、デザインとかアートを生活の中で楽しむように当たり前にしていくっていうのが、ひとつあるわけ。 それってさ、家にデザイン雑貨とかアートの写真集があったりする中に入り込もうとしているんだよね。 最初、そこまで壮大なことは正直思ってなかった。 会社化して拡大していくって時に、それをビジョンとしてチャレンジしていこう、っていうふうに頭が切り替わったよね。 |
清水 | そうか、立ち上げた時は、もっとターゲットを限定してた感じだったんだね。 |
紘一 | そうだね。でも人生一回きりだし、たくさんの人に伝えたいよなぁ、って切り替わっていった感じだね。 |
美に投資すること
清水 | さっき言ってた、「尖りながら拡大する」っていうのは面白いね。 |
洋毅 | わかりやすいことをやったほうが、パッと世の中に広まるって思う一方で、わかりやすくないことをやっているからこそ新しいわけで。 もしかしたら遠回りしてる紘一のほうが正解なのかなとか、俺自身ちょっと葛藤してる。 順子は、何か思うところはあるの? |
順子 | 私は最初から見てるから、じわじわと伝わるものがあるって感じるんだよね。 時間とともに世の中に受け入れられる様を見てきたから、このまま紘一さんがやってる方向で大丈夫なんだと思ってるんだけど、でもそれに確証はないから、洋毅さんの気持ちもすごくわかる。 |
清水 | そうかそうか。 |
紘一 | ウサギノネドコはね、自然の一部なんですよ。 |
清水 | おお! つまり? |
紘一 | 今地球にあるものって、47億年の時間をかけて、じっくりじっくり出来上がってるわけでさ。 じわじわ成長するものは、きちんとロングスパンで生き残っていくっていう確信を持ってやっているって感じかな。 即座にバーンって花開くものは、急激にしぼんでいくんだよね。 |
清水 | そうだよな。 紘一は、一過性のブームで終わるものじゃなくて、長く残り続けるものを作りたいって、ずっと言ってるよなあ。 |
順子 | だから、紘一さん見てると、「何でも好きなもの買っていいよ」って言ってあげたくなっちゃうわけ。 |
清水 | (笑)こどもか! |
順子 | そしたら、日に日に最近、玄関に知らない美しいものが増えてビックリしてるんだけど。 |
洋毅 | 買っていいとは言ったもののね。 |
順子 | でも、それを、順子は止めたくないんだよね。 たぶん、洋毅さんは止めたくなると思うんだけど。 |
洋毅 | いや、ご自宅の玄関はね、好きにしていただいて結構ですよ。 |
清水 | ぶはははは! プライベートな空間だし。 |
順子 | でも、すべては、仕事のために買ってるから。 |
清水 | そうか、そうだよな。 紘一の場合、そこから発想したり、気づきもあるから、好きなものを好きなように買うことも仕事の一部だよね。 |
紘一 | 最近、なんか、物欲が止まらなくてさ。 |
清水 | それは、いいことだね。 |
紘一 | そうそう、いいことだと思ってるの。 |
順子 | うん、いいこと。 |
紘一 | 美に対してちゃんと投資しようっていう意識が、最近すごくあって。 僕らがお世話になっている、山田遊さんっていうバイヤーの方がいるんだけどさ。 彼のオフィスに行った時に、機能はないけど何か魅力的なモノがずらっと並んでいる棚があってさ。 すごくいいなと思ったんだよね。 ああ、美しいものを選んでる人は、ちゃんと美に対して投資してるんだな、って思った。 |
清水 | そうだね。 買ったってことは、単に眺めるだけじゃなく、それにお金を出す決断を自分でしてるわけだから。 |
紘一 | その行為自体が、センスを磨いていくことなんだなと思ってさ。 もちろん「いいもの」が結果的に「低価格」であることは一番いいけど、「安いから」っていう理由で選ぶのとか、「ちょっとしか使わないから安いものにしよう」っていう発想で何かを買うのはやめよう、と思っていて。 その選択が、いろんなものを濁らせていくんだよね。 |
順子 | 値段を見ちゃダメだよね。 |
紘一 | まあ、さすがに天秤にはかけるけどね。 これは美しいけど100万円は出せないなー、とかはあるけど(笑)。 やっぱり自然の造形美を伝えることがミッションだから、何が美しいかを僕たちは徹底して知らないといけないんだよね、きっと。 |
清水 | たしかに、そうすることで磨かれるんだろうな。 ウサギノネドコみたいなショップをやる場合、審美眼が重要なんだろうからね。 |
紘一 | 「美」って人によって違うものじゃなく、普遍的な「美」があると思っていて。 自然にはそれがあって、それをきちんと見い出して、切り取って、ぽんと出す、というのが僕らの役割かな、っていう気がしてるんだよね。 |
清水 | 好きなものを買うのに、奥さんの協力があるってのは最高だなあ。 |
紘一 | それは、そうだよね。 だから、逆に不安になるわけ。 「ほんと俺、これ買っていいのか?」って(笑)。 |
順子 | 人生って短いじゃん。 |
清水 | おお! いいこと言ったね。 |
順子 | 短いって思っちゃうから、買ったら?って思わない? |
清水 | オレはすごくそう思うよ。 |
順子 | 欲しいものがあったら、買ってちょっと幸せになるんだったら、何でも買っちゃいなよって思っちゃう。 |
清水 | そう思うんだけど、男が集めたがるものって、女の人には意味不明なものが多いからね。 |
洋毅 | ダンナが趣味の世界に走って、奥さんがキレるってのはよくある話しだけれども。 |
順子 | まあ、そのかわり、順子も買うけどね。 |
清水 | ぶはははは! |
順子 | みたいな感じだから、家計が大丈夫か心配なんだけど。 |
紘一 | そうそうそう。 二人揃ってそんな状態だからコワくなっちゃって最近。 |
洋毅 | でも、金銭感覚、二人とも狂ってるとは思わないし、むしろ、しっかりしてるほうだと思うけど。 |
清水 | そうだね。 |
順子 | 計算とかあまりしないから、感覚的なものだけを信じて生きてる。 大丈夫かなーとも思うけれど、それよりも、自分がいいと思う空間で生きてたほうが幸せなんじゃないかと思うから。 |
清水 | まあ、自分で心配してるうちは、破滅的なことにはならないよ。 |
洋毅 | そうだよね。 |
骨の造形
清水 | せっかくだから、来月(2015年2月)から始まるホネ展のことも聞こうか。 |
紘一 | ああ、うん。 ちょっと持ってこようか。 |
清水 | ホネ展やるほど骨がたくさんあるの? |
順子 | あるある。 家族で骨にハマっちゃってて。 |
清水 | (笑)骨にハマってる家族。 |
順子 | 骨図鑑ていうものが世の中にいろいろあって、めちゃめちゃ面白いの。 |
清水 | スカルのアクセサリーとか、そういうのとはまた違うんだよね? |
順子 | じゃなくて、ツノとか突き出てるようなのがカッコよくて、見ごたえがある。 |
洋毅 | そっち? |
順子 | シカだか何だかわかんないんだけど、自然の、その形がすんごいんだよ。 |
紘一 | ホネ展で出すのは、こういうのだね。 |
順子 | 持ってこようかって言ったのはチラシじゃなくて、骨のことだったの? |
紘一 | あ、違った? |
清水 | いや、オレは骨を持ってくると思ってたよ。 |
洋毅 | 大丈夫、合ってる合ってる。 |
紘一 | 俺も骨について詳しいわけではないので、何人か骨のゲストをお招きしようかなと思って。 |
清水 | トークイベントとかやるの? |
紘一 | そう、骨の造形について語ってもらって、この骨は、こういう意味があってこういう形してるんです、とかっていう話しをアカデミックな見地から。 |
清水 | もともと、そういう人と出会ったから、このホネ展をやろうと思った、って順番なのかな。 |
紘一 | そうそう、そういうつながりが何人か出来てきて、じゃ、ホネ展出来るかも、って感じで生まれた企画だね。 |
順子 | さっき、人生短いって話しあったじゃん? 死んだら自分てどこに行くんだろうって思っちゃうんだけどさ、自分が骨になっても、こうやって人に見てもらえたらなって。 |
清水 | ぶはははは! 見てもらえたら本望だと。 |
紘一 | そんなふうに思ってたの!? |
順子 | そうそう、そんなふうに思いながら、図鑑を見てる。 |
紘一 | これはインパラさんで、こっちがイノシシさん。 |
清水 | これは全部売り物なの? |
紘一 | 展示だけのものもあるんだけど、基本的には全部、買えるものにしようかなと。 なかなか骨を買える店なんてないしさ。 |
清水 | 近所のスーパーには置いてないわな。 |
洋毅 | チラシに載ってんの見たことないからね。 |
順子 | ウシ科はとくに面白いと思う。 |
清水 | ほうほう。 順子が好きなものって、紘一と似てるの? |
順子 | ううん。 でも、最近はやっぱり似てきたよね。 本来は、メルヘンなものとか好きだからさ。 |
清水 | そうだよな。 順子といえば、ピンク色の持ち物が多かったし。 |
順子 | でも骨なんかは、最初、私のほうが好きだったよね。 |
紘一 | あ、そうそう、仕入れに一緒に行った時ね。 俺はさすがに買うことを躊躇したんけど、「買っちゃえ買っちゃえ」みたいな感じだったから。 |
順子 | 何万もする熊の骨とか「安い安い」って言っちゃってね。 でもいまだに、紘一さんの好きなもので、全然わからないのもあるけどね。 「この造形が・・」とか言ってるけど何のことだろう?って。 |
清水 | (笑)完全には理解しきれないか。 |
順子 | でも、だんだん私の好みも変わってきて、 家にあるコートハンガーも、自分が気に入ったのを買ったんだけど、流木のなの。 |
清水 | 流木のハンガーは、順子は買わなそうだよなあ。 |
順子 | 昔だったら、買ってないよね。 そこは、紘一さんに影響を受けて変わってきてる。 だから、他の人もそうなんじゃないかと思って。 ウサギノネドコで物を買って行った人が、周りの人に紹介して、知れ渡っていく、っていうのは実感としてある気がする。 |
紘一 | ああ、そうなってくれると嬉しいね。 たとえ時間をかけてでも、これがいいものである、って思うことを伝えていけたらいい、って感じには思うなぁ。 |
(2015年1月 京都「ウサギノネドコ」にて)
【暮らし百景への一言】
ヒトゴトでインタビューしてもらうのはこれで4回目。感慨深いなぁ…。節目節目で自分の考え方を整理して、伝える大切なインタビューとなっています。次にもまたインタビューしてもらえるよう、僕自身もウサギノネドコも進化を遂げて、新しいニュースを発信し続けたいなと思います。(吉村紘一)
ヒトゴトでインタビューしてもらうのはこれで4回目。感慨深いなぁ…。節目節目で自分の考え方を整理して、伝える大切なインタビューとなっています。次にもまたインタビューしてもらえるよう、僕自身もウサギノネドコも進化を遂げて、新しいニュースを発信し続けたいなと思います。(吉村紘一)
【清水宣晶からの紹介】
「ウサギノネドコ」スタッフである、吉村紘一、吉村順子、小野寺洋毅はともに旧知の友人で、その3人が今、京都で一緒に仕事をしているということが、なんだかとても不思議で、面白い。
紘一には、今までにも、新しいプロダクトを発表したようなタイミングで京都に話しを聞かせてもらいに行っていて、今回が4回目になる。
短い期間の間にも繰り返し進化し、それに合わせるように彼自身の思想もバージョンアップを続けているために、話しを聞きに行くたび、僕はいつも大きな刺激を受けている。
そこに新たに、2014年の秋から洋毅が加わったことで、また大きくその形を変える動きがあって、それによってどういう変化があったのか、今回は「ウサギノネドコ」の3人のメンバーに話しを聞かせてもらった。
ロケットエンジンを積んだ軽自動車、のたとえは言い得て妙で、「ウサギノネドコは」は、表向きは古式ゆかしい京町家でありながら、その精神はアグレッシブだ。
3人がそれぞれ際立った個性と能力を持ちながら、より良いプロダクトを世に送り出していくという目標を持って、笑いながら、しかし真剣に話し合っている姿を見て、この先「ウサギノネドコ」がどのような成長をしていくのか、とても楽しみに思った。
「ウサギノネドコ」スタッフである、吉村紘一、吉村順子、小野寺洋毅はともに旧知の友人で、その3人が今、京都で一緒に仕事をしているということが、なんだかとても不思議で、面白い。
紘一には、今までにも、新しいプロダクトを発表したようなタイミングで京都に話しを聞かせてもらいに行っていて、今回が4回目になる。
短い期間の間にも繰り返し進化し、それに合わせるように彼自身の思想もバージョンアップを続けているために、話しを聞きに行くたび、僕はいつも大きな刺激を受けている。
そこに新たに、2014年の秋から洋毅が加わったことで、また大きくその形を変える動きがあって、それによってどういう変化があったのか、今回は「ウサギノネドコ」の3人のメンバーに話しを聞かせてもらった。
ロケットエンジンを積んだ軽自動車、のたとえは言い得て妙で、「ウサギノネドコは」は、表向きは古式ゆかしい京町家でありながら、その精神はアグレッシブだ。
3人がそれぞれ際立った個性と能力を持ちながら、より良いプロダクトを世に送り出していくという目標を持って、笑いながら、しかし真剣に話し合っている姿を見て、この先「ウサギノネドコ」がどのような成長をしていくのか、とても楽しみに思った。