清水宣晶

清水宣晶(しみずのりあき)
横浜生まれ、横浜在住。
慶應義塾大学文学部 図書館・情報学科卒業。

https://www.facebook.com/noriaki.shimizu
https://twitter.com/suisho

システムエンジニアとしてNECに勤務後、2000年4月、25歳の時にwebシステム制作会社「(株)インフォアロー」を設立。

webシステムを制作するかたわら、ライフワークとして、インタビューサイト「ヒトゴト」を通じて対話を重ねる日々をおくっている。
※このインタビューは、同一人物が聞き手と話し手になって、バーチャルに対話をおこなったものです。「暮らし百景」についてよく訊ねられることに、自問自答形式で答えました。
(大脳辺縁部にて)

ヒトゴトを始めたきっかけ

(清水宣晶:) まず、なんでこの、
「ヒトゴト」っていうサイトをやってみようと思ったの?

(清水宣晶:) きっかけになったことは二つあって。
前に、自分自身が、記者の人にインタビューを受けたことがあったんだけど、その時、質問に答えているうちに、それまで自分では考えたことなかったことが色々と出てきて、考えが整理されたことがたくさんあった。
それを経験して、すごく面白いと思ったのが、最初のきっかけだった。

インタビューみたいに、何をやってきた人かとかをじっくり聞かれることは、普段の会話の中ではあまりないものね。

そう。
それを、自分のよく知っている人に対してあらためて聞くっていうのは、面白いことなんじゃないかと思った。
でも、そういうのって、友達との日常会話の中ではなかなか聞くモードにならないから、「さあ、じっくり語りましょうか」っていう場を、あえて設けたほうが聞きやすいと思って。

わざわざそんな場を作らなくても、
じっくり語ることは出来る気もするけど?

そう思うでしょ?
オレも、やる前はそう思ってたんだけどさ、
やっぱり、時間を区切って、「さあインタビューをします」ってなると、時間の密度が変わってくるんだよ。
なんとなく、居ずまいを正して向き合うような空気が、その場に生まれるんじゃないかと思う。

そういうものなのかな。
始めたきっかけが二つあったって言ってたけど、もう一つは?

もう一つのきっかけは、
「私には夢がある」の和田清華に、会社のホームページに載せる原稿を作るために、インタビュアーをやってほしいと言われたことがあって。
その時に、二人で何時間もじっくり対話をするっていう時間を何回か持った。
それをまとめているうちに、これは面白いな、と思ったんだね。

ページを一つ作るために、
そんなにたくさん話しをしたの?

そう。
そのインタビューを引き受けた時、目指したのは、
「オレじゃなきゃ聞けないことを聞こう」っていうことだった。
ありきたりな質問をしてたんじゃ、自分が聞き手になっている意味がない、と思って、今までの関わりの中から和田清華という人の特徴や個性を考えて、その本質に迫れるような、ちょっと切り込んだ質問を用意することにした。
で、彼女は、そういう質問を用意していくと、きちんとそれに応えるわけなんだよ。

対応の幅が広い人だからね。

その時に感じた面白さは、シチュエーションさえ整えれば、他の人とであっても引き出すことが出来るものなんじゃないかと思った。
その時から、自分の周りの人たちから始めて、少しずつ話しを聞かせてもらったのが、「ヒトゴト」の原形だね。

その面白さっていうのは、何なんだろう。
お互いの理解が深まったっていう楽しさなのかな?

インタビューってさ、話しを聞いているオレももちろん楽しいし、自分のタメになってるんだけど、話している人自身にも色々気づきはあるんじゃないかと思うんだよ。

気づきっていうのは、自分自身のことについて?

そう。
「今日聞かれたようなことは、今までちゃんと考えたことがなかった」とか。
あと、その内容が文章になった時、自分の言葉が客観的になって、新しい発見があったりとかね。
やっぱり、自分の考えを言葉にするっていうのは、考えていることを整理するのには、かなり役立つんじゃないかと思う。

ちょっと、カウンセリングやコーチングの過程に似たところがあるね。

プロセスには似たところはあるかもしれないけど、
オレは、カウンセリングとかコーチングっていう言葉が好きじゃなくて。
誰かが誰かを癒すとか教える、っていう立場に立つのは傲慢な気がするからさ。
それよりは、オレがやりたいのは、お互いが対等な立場で話しをする「ダイアログ」なんだと思っている。

「ダイアログ」と「インタビュー」の違いは何なの?

やってることはそれほど変わらないんだけど、
「インタビュー」っていうのは、聞き手が黒子みたいに存在を出来るだけ消そうとするのに対して、「ダイアログ」は、聞き手側も自分の考えを言ったりして、お互いの世界を融合させていく感じかな。
でも、「ダイアログ」って言葉はニュアンスが伝わりにくいと思うので、他の人に説明する時には、普通に「インタビュー」って言葉を使うと思うんだけどね。

ヒトゴトが目指すもの

「ヒトゴト」を一つのメディアと考えた時に、
何か、独自のこだわりみたいなものはある?

ダイアログを公開する時には、二つの方針を守るようにしていて。
一つ目は、話し手の人との間で、完全に合意が取れた内容だけを公開するということ。
二つ目は、記事を読んだ時に、話し手の人の魅力が伝わる内容になっていること。

一つずつ聞いていこうか。
話し手との間で合意を取るっていうのは、記事の内容を、事前に相手に確認してもらうっていうこと?

そう。
確認してもらうだけじゃなくて、
記事の管理画面にログインするIDを発行して、記事を自分自身で自由に編集してもらえるようにしてる。

内容を勝手に変えたり、消したりしてもいいの?

好きに変えてもらって構わない。
それに対してオレも、「ここは、こうしたほうがいいんじゃない?」という意見は言うことあるけど。
最終的に、すべての部分について話し手の人のOKが出るまでは、公開はしない。

なんで、そこまで徹底しようと思った?

雑誌とか、新聞みたいなメディアって、圧倒的に発行者側の権利のほうが強い気がするんだよ。
ゲラの確認をさせてくれることはあっても、訂正は認められなかったり、企画の主旨に沿わない意見は、都合のいいように曲解されたり。
結局、最終決定権は発行者側にある。

まあ、中にはそんなに強圧的じゃない、
とことんまで直しにつきあってくれる編集者もいるだろうけど。

それにしたってさ、結局直すのは発行者側で、修正をお願いしないといけないっていう状態は、結構ストレスだと思うんだよ。
好きな時にいつでも、自分で勝手に直すことが出来るれば、気持ち的にだいぶ楽なんじゃないかと思う。

んー、、
パソコンをある程度使い慣れてる人なら、
そっちのほうが便利って思うかもね。

あと、雑誌みたいな活字の媒体と違って、
後からでも、変更したり、非公開にしたりすることが出来るっていうところは、ウェブというメディアの大きな利点だと思う。

なるほどね。
じゃあ、もう一つの方針の、
「話し手の魅力が伝わる内容にする」ってのは、どういうこと?

「ヒトゴト」が、週刊誌の記事や報道と違うのは、
好意的なことしか書かないっていうことで。
話し手の魅力的な部分をクローズアップして、そこだけを取り出したいと思ってる。

でも、人ってのは、
いい面だけじゃなくて、欠点も持ってるわけじゃない。
そういうところは無視しちゃうってこと?

そう。
そういう意味では、だいぶ偏ってるとは思うけどね。
でも、オレはそれでいいと思ってる。
といっても、あること無いこと褒めまくるっていうことじゃないよ。
話しの中で、オレが聞いていて「魅力的だ」と思う部分だけを取り出すっていうことで。

どうして、そういう方針にしようと思ったの?

一番大きな理由は、
「ヒトゴトで話しをして良かった」っていう風に、
話しをしてくれた人全員に思ってほしいっていうことがある。
話し手の人が、自分の話しの編集をオレにゆだねて、公開する権利を与えてくれるっていうのは、その分の信頼を贈ってくれたってことだと思うんだよ。
そのことは、一人一人に、すごく感謝してる。
だから、オレは、それに報いるために、
相手へのギフトになるような形で記事をまとめたいって思う。

ギフトか。
お互いに、形のないものを贈りあう感じだね。

そう。
このメディアを使ってやりたいのは「エールの交換」みたいなもので、
自分と話し手の人との間にそういう関係が作れるんじゃなければ、やる意味がないと思ってる。

ヒトゴトでの聞きかた

「ヒトゴト」で話しを聞く相手は、どういう基準で決めてるの?

一番重要なことは、その相手の魅力的な部分を、自分が引き出せるという確信があるかどうかだね。

それは、どういうことなんだろう。
どういう人に対してであれば、その人の魅力を引き出せるって思うの?

話しの中で、突っ込んだことを聞いたり、失礼になるようなこともあるかも知れないけれど、ベースには「絶対的にあなたのことが好きで、失礼に思えることがあったとしても、そこに悪気はありません」という気持ちを理解してくれている相手じゃないと、引き出せない感じがする。

別に、失礼になるようなことは最初っからしなければいいだけなんじゃない?

もちろん、最初っからそうするつもりはないんだけどさ。
そのぐらい、すれすれのところまで入り込まないと、表面的なこと以上のことは出てこないって時がある。
だから、気心がしれてるような雰囲気の相手じゃないと、ちゃんと話しを聞くのは難しいな。

そこまでの確信がない人には、話しは聞かないの?

話しながら、だんだん相手のことがわかってくるっていう場合もあるから、確信まではいかなくても、ある程度の輪郭がわかっていれば聞くこともある。
でも、初対面の人とか、ほとんど話したことがない人には、やっぱりまだ話しが聞ける段階じゃないって思うな。

聞く内容ってのは、どういうことを聞くの?

人によって、それは本当にまちまちだね。
でも、その人の本質的な魅力をあらわすような部分を聞きたいと思うし、
なるべく、オレじゃなきゃ聞けないような話しを聞こうとは思う。

会う前に、質問って考えていく?

最低限聞きたいと思うことを、リストアップしたりはする。
でも、その項目ってのは、会話のきっかけにすぎないことが多くて。
その場の流れで予想外に出てきた話しを追いかけていくほうが、
ずっと魅力的な話しになることが多いね。

「ヒトゴト」のインタビューを読んでるとさ、
すらすらと話しが出てるように思えるんだけど、
みんな、そんなに面白い話しって出てくるものなの?

どんな人の中にも、必ず魅力的な話しはあると思うんだよ。
それが、大前提で。
でも、それを引き出すまでにすごく時間がかかる場合もある。

あまり、その人のことをよく知らないから、
ポイントがわからなかったってこと?

そういう理由もあるし、
やっぱり、その場の会話の流れとかノリとかにもよって、
どうしても、本質的な部分を探りあてられなかった、っていうこともある。

そういう場合は、打ち切りになるの?

一回じゃ聞ききれなかった、っていう場合は、また続きを別の日に聞くね。
話しをする時間も、人によって全然違って、
1時間でとても深く話しを聞けることもあれば、10時間ぐらいぶっ通しで話し続けることもある。

インタビューの記事の中では、
そんなにたくさんの時間が経ってるっていうような感じはしないね。

意味がある部分をつなぎ合わせて、編集をしてるからね。
だから、すらすらと話しが出ているように見えても、
実際には、すごく時間をかけながら話しをしている部分だったりする。

みんながみんな、すらすら話しが出てるわけじゃないんだね。

どっちかっていうと、すぐに話しが出てくるっていうのは、
よっぽど話し慣れてる人だけで、しかも、そういう時の話しは、表面的であまり面白くないことが多い。
それよりは、じっくり時間をかけて聞いて、思いもかけないところから浮かびあがってくるもののほうが、ずっとその人らしさがあらわれていたりする。

そうか。
文章で読んだ感じよりも、だいぶ時間がかかってるんだな。
これから、「ヒトゴト」をどうしていきたいっていうイメージは、何かあるの?

基本的には、これからも同じように、ずっと対話を重ねていきたいと思う。
これは、死ぬまで続けたいと思っているライフワークだから、じっくり、時間をかけて取り組んでいきたいな。
(大脳辺縁部にて)


対話集


公開インタビュー


参加型ワークショップ