中村元治


軽井沢“COFFEE ROASTERY NAKAJI”焙煎トレーナー。
コーヒーコンサルタント。
クミテコーヒー・ヘッドロースター。
JCRC2022第4位。
コーヒーと料理のフルペアリング。

【講習・コーヒー豆販売】
https://shop.coffee-nakaji.com
(2024年5月 軽井沢「COFFEE ROASTERY NAKAJI」にて)

誰かが喜ぶ仕事

(中村元治:) 今日は、あっきーさんの服の色から見て・・
このコーヒーでいきましょうかね。


(清水宣晶:) えええ?そういうところから!
グラスも美しいですね。


僕自身がコーヒーと料理のペアリングをやっているので、
こういうグラスを結構持ってるんです。

香りを味わうものとか、質感を味わうものとか、
味わい方のテイストによって、器を変えて出してます。

面白いなあ。

ニカラグアのパカマラ種と言われるもので、
少し大粒のコーヒー豆です。
エチオピアのコーヒー豆と比べてみましょうか。


あ、全然大きさが違う。

それぞれ味に特徴があるので、
ぜひ飲んでみてください。

コーヒーらしい風味ですけど、
ちょっと軽やかですね。

そう、薄いわけじゃないんだけども、
ちょっと軽い感じがするのがこの品種の特徴です。

ただただ、美味しい。
この星に生まれてよかったなって思います。


この星に!それは本当にそう思います。
ナカジさんは、もともと、
コーヒーはお好きだったんですか?

コーヒーは、嫌いではなかったんですけど、
それほど積極的に飲む方ではなかった。
小学生の時に母親が飲んでたインスタントコーヒーが最初のコーヒーです。

ちょっと苦いコーヒーだったので、
小さい時は、ウィンナーコーヒーが好きでした。
ケーキ以外でなかなかお目にかかれない生クリームを口にできたのが、
好きになった理由ですね。

その後は何か、
コーヒーとの接点はありましたか。

就職をした、警察の職場は、
若いのが早く出勤して、先輩の机拭いて、灰皿並べて、
コーヒーを準備して、っていう世代だったので、
その時に初めてコーヒーメーカーでコーヒーを淹れました。


うんうん。

で、飲んでも、なんか水っぽい。
よくこの人たち、こんなの飲むなと思いながら、
朝、先輩とか上司に出して。

コーヒーとの関わりは、
30歳近くまでそんな感じだったんですが・・
大きい転機はルワンダでした。

ルワンダ!?

ルワンダの、ツチ族とフツ族の民族紛争が発端になった、
虐殺事件をテーマにした映画を観たんです。

『ホテル・ルワンダ』ですか?

そう、ブラッド・ピットが好きで、
『オーシャンズイレブン』とかいろいろ観て。
もうブラッド・ピットが出てる映画を観尽くしてしまった。
じゃあ次は、一緒に出演してる人の映画を観ていこう、ってなって。

ドン・チードルつながりで、
『ホテル・ルワンダ』に行き着いたんですね。

エンタメを想像して借りてきたら、
うわ、これは重たいなって。
ちょうど、その頃に僕は、
殺人事件の捜査をやってたんです。


刑事だったときに。

刑事として発生現場に行って、
事件なのかどうなのかを確認して、
事件であれば加害者を探して特定するのが仕事でした。

世の中の平和に役立つ仕事だと思って就職したものの、
たしかに誰かの役には立ってるけど、
喜んでもらえる仕事じゃないな、と感じていた頃でした。

なんか、いろんな不条理とか、悲しみだとか、
そういうのをまざまざと見るような仕事な気がします。

そう。
逮捕しました、自供しました、起訴しました、
お疲れ様でしたイェーイ、って仕事じゃないんですよ。

被害者は「ありがとうございました」と形式上は言うけれど、
もう奪われたものは返ってこない、
っていう虚しい感情が全部伝わってくるんですね。

自分は人の役に立ってるのかなって思ってる時に、
『ホテル・ルワンダ』っていう映画を見て、
こんなことが地球上であったんだ、って知ったんです。

今、ルワンダはどうなってるんだろう?
って調べたら、その後だいぶ復興していて、
その中心の産業になったのが、
コーヒーや紅茶っていう農作物でした。

そうだったんですか!
ルワンダのコーヒーって知らなかった。

以前に植民地だったという経緯があるので、
ヨーロッパへの輸出作物という位置づけです。

それをきっかけに、
コーヒーというものを意識するようになって、
ルワンダのコーヒーってどこで売ってるんだろうとか、
興味を持って、色々と飲むようになりました。


映画から、ルワンダって国に興味を持って、
そこからコーヒーに結びついたんですね。

そうです。
で、調べていくと、
コーヒーが作られていた国っていうのは、
まだまだこれから発展途上と言われる国で、
ライフラインの整備が進んでない国だったんです。

その時にね、こういう国の産業に関わることは、
私が望んでいた、誰かが喜ぶ仕事に繋がるんじゃないかって、
見出してしまったようなところはあります。

面白い関わり方ですね。
コーヒーが好きだからカフェをやりたい、
みたいな人は多いと思うんですけど、
国の復興に関わる、っていうところからの
アプローチは面白いです。

僕の場合は、そうだったんです。


じゃあもう、
お店で提供するっていう下流のところよりも、
ずっと上流の、産地に行くことに最初から興味あったんですね。

それがもう、明確にありました。
だけど、消費国の人間である以上、産地のものを買ったら、
それをエンドユーザーの消費者にまで届けなければいけない。
そうしなければ、「お前何しに来たんだ」って言われちゃうんで。

そうですよね。
それができないと、ただの観光客になってしまう。

ってことはやっぱり、まずはカフェをやらなくちゃいけない。
コーヒーを出すお店をちゃんと商売としてやらないとなって思った時に、
当時、妻がケーキを作りたいって言ってたんです。

えええ!?

コーヒーだけで商売やるのは簡単じゃないなって思ってたときに、
ふっと隣りを見たら、
ここにケーキをやりたいっていうパティシエがいたぞと。

いや、すごいですね。
ナカジさんのやりたいことと、
奥さんのやりたいことが、
ぴったり合っちゃったんですね。

そのときは、
「私の夢に乗っからないで」って怒られたんですけど(笑)。
たしかに組合わせれば美味しいのはわかってるけど
私はコーヒーには興味ないから、って。

ぶはははは!
先に考えてたのは奥さんのほうだし。

でも最終的には一緒に店をやるっていう形で、
35歳で警察をやめて、コーヒー屋のスタートになりました。

そうか。
じゃあ、やりたいことが決まったあとに、
仕事を辞めるっていう順番だったんですね。

本当は、妻とは、
50歳から始めるっていう話しをしてたんですよ。
「わたし家建てたいから」とか言ってて。

うんうん。

そういう風に言ってたんですけど・・
刑事を辞めた理由って、
あっきーさんにお話ししてましたっけ?


あ、いや、
聞いてないです。

その辺もちょっと、
信じてもらえるかどうかっていうような経験なんですけど。

当時、一家のお母さんと、お子さん3人が殺されて、
ご自宅に放火をされるっていう事件があって、
現場検証で家の中に入ったことがありました。

はい。

僕はその頃、異動して刑事からは離れていたんですが、
特捜要員として捜査に従事していて、
中学2年の女の子の検視と解剖に立ち会ったんです。
本当にやるせない思いでした。

事件は未解決のまま時間が経って、
何年目かの発生日に現場を訪れたときに、
手を合わせちゃったんです。

僕、いつもは手を合わせないんですね。
「合わせると、呼ぶ」って言われてたので。

そうなんですか。

刑事と死って、切っても切れない仲でして。
もう毎週、関わりがあります。
僕はこう、比較的呼びやすい体質みたいで、
そのたびに体が重たくなるんです。

その日、夜中の12時頃に帰ってご飯食べてたら、
寝てたはずの2歳の娘が、奥の部屋から突然起き上がって、
聞いたこともない声で「お父さん殺してやる」
って大声で叫び出したんです。

その事件って、お父さんだけ生き残ってるんです。
当日は、外泊して、いなかったっていうことで。
で、その女の子は背中に、
数えきれないぐらいの刺し傷を負わされて殺されてたんですね。

うわわわ、わわわ。

そう叫んだ途端、急にグタって倒れこんで。
翌日病院に連れてったら歩けなくなっちゃったんですよ。
原因不明で入院をして、
とりあえずしばらくしたら退院できたんですけど。

その時に妻に、刑事を辞めるよ、と言いました。
この出来事は誰も信じないかもしれないけれど、
これはもう辞めるよ、と。

その後、刑事部から離れて災害対策の仕事に変わったんですが、
最終的にそこで、50歳って言ってたのを前倒しにして、
警察そのものを辞職することにしました。

そうでしたか。
聞くほどに結構意外というか。
ナカジさんは感受性がかなり鋭い人だと思うんですけど、
刑事みたいな仕事をやる人って、鈍いぐらいに、
メンタルがタフじゃないと耐えられなさそうなイメージです。

たぶん、娘の件があるまではタフでした。
妻も子供も、僕のことを、
「話しかけられないぐらい怖い」って言ってました。

そうなんですか!

人相も今とは全然違ったので、
もう、おっしゃるイメージ通りのタフさでした。

もし、そういう、呼ぶような体質がなかったら、
そのままずっと続けてたかもしれないですね。

いや、続けてたと思います。
刑事って、ものすごく僕の性格に合っていて。


なんと。

もう本当にね、そういうタフな世界がすごく向いていて、
しっくり来るほどに合ってたんです。
ただ、家族との距離はどんどん開いていくのも感じてました。

だって、解剖をした後に焼肉食べたり、
そういう話が日常茶飯事なんですよ。
おしゃれとか、そういうのに全く興味がないわけじゃないんですけど、
もう、そういうことよりも、仕事のことに意識が向きすぎて、
普通の人と話せなくなっちゃってました。

退職した途端に、
「どうやって生きていくんだろう」って考えて。

いや、そうですよね、
なかなか他の場所では縁がない経験やスキルですもんね。

元々、就職の時は、
希望して入られたんですか。

そうです、明確に。
しかも刑事を目指していました。
30歳までに小隊長になって、
で、刑事もやっていくってのは決めていましたんで、
望んだ通りの道にはなってたんです。

すごいですね。
刑事も機動隊も、
みんなが行きたがる花形の部署でしょう。

若くなければいけないとか、
いろんな条件を満たさないとできない仕事をやらせていただいたので、
間違いなく色々と運は良かったと思うんですね。

それは1つ目標にしていたんですけど、
でもそこから先は、
なってみてはじめて見える世界があった、
っていう風に思ってます。

なってみてはじめて見える世界。


はい。
普通の日常を喜ぶことができない、
そういう日々をずっと続けるのか、とか。

世の中の役には立ってるけれども、
喜ぶためにやってる仕事とはまた違うんだなっていう。

そういったことを実際に理解するっていうのは、
やっぱり、やる前では気づけないことでしたね。

順調に行けば行くほど、どんどん、
日常生活とはかけ離れた世界になっていっちゃいますもんね。
普通の感覚じゃやっていけないこともあるでしょうし。

そういう世界にいたので、
コーヒーについては、
美味しい、美味しくない、とかは
感覚として持つことなく入ってます。

そうでしょうね。
ハードな現場のイメージって、
適当に入れられたコーヒーを、
眠気覚ましに飲むっていうようなイメージです。

もう、まさにおっしゃる通りです。
缶コーヒーも今飲んでるコーヒーも差がないです。
これ、当時の僕が飲んだら、
「なんだこれ、薄っ!缶コーヒー飲んだほうがガツンとくるぜ」って。


ぶははははは!
味が濃いほうがわかりやすいから。

「クミテコーヒー」の由来は
柔道の組手から来てるって聞きましたけど、
柔道をやっていたのも、その頃ですか。

そうです。
僕は、警察に入るまでは剣道をやってたんですけど、
近場で揉み合うことが増えると思ったので、後から柔道をやりました。

剣道か柔道の、
どっちかは必ずやるもんなんですか?

絶対必修で、有段者にならなければいけないってのがあって、
もう、有段者になるまでずっと送り込まれます。

(笑)送り込まれ続ける。
柔道のほうが後からやったにも関わらず、
好きだったんですね。

はい。
柔道は好きでした。

そうか、なんか、
柔道って大柄な人がやるようなイメージですけども。

なので、なんていうのかな、
本当に柔道としての柔道よりは、
最後って、体力がものを言うので。

どんな現場でも思ったんですけれども、
体力のある人が生き残れる。
だから、体はちゃんと作っていかないといけないなっていうのは根底にあります。


それは最近、
僕もすごく実感してます。

地震で建物が倒壊したところに救助に行ったことがあるんですけど、
救い出すことができるから救助であって、
自分がハマってしまったら、被災者なんですよ。

たしかに。
被災者と救出者って、紙一重ですよね。

その二者で何が違うかっていうと、
体力があるということと、道具を持ってるということ。
道具を持ってても、体力がないと助けることはできない。
結局、最終的には体力なんです。

いや、そうですね、
溺れてる人を助けるのも、
自分も一緒に溺れちゃうとかありますもんね。

僕、人を担いで、
高い所からロープで降りるとかっていう訓練もやってましたけど、
人を背負ってロープ1本で降りるって、ものすごく大変なんです。

そういうのもあって。
やはり体力を失わないようにっていうのはあって、
細々とですけど、トレーニングは継続してます。


お店の前で、やってましたね(笑)。
ナカジさんの身体能力には、ほんと驚きました。

美味しくない、を出さない

警察をやめる時、
次はコーヒーをやるつもりです、
とは周りに言わなかったですか?

いや、もう、コーヒーやるって言いました。
「そんなんで生きていけると思うのか?」とは言われましたけど、
いけると思うのかも何も、これでやっていくんだ、って決めてましたから。


なにか、こういうコーヒーを淹れたいんだ、
っていう方向性はあったんでしょうか。

僕はもう、人に美味しいと感じてもらうために
コーヒーを焙煎してるというのが一番なので、
自分の好みを出すというのはあんまりないです。

おお・・
それ、ちょっと詳しく教えてもらうと、
どういうことでしょうか。

人はやっぱり、美味しくないと買ってくれないですね。
でも、「美味しい」っていうのはその方の感性だと思うんです。

じゃあその人が美味しいと感じるものって何かを調べて、
その範疇に収まるようにしていくっていうのを意識してやってます。

それはなんだろう、
どうすれば一番美味しく出せるかっていう探求なんですかね。

一番美味しい、は難しいんですよ。
それよりも、「美味しくない」を出さないってことです。

おおおお。


「美味しくない」を出さなければ、
まずは、美味しいって言ってもらえます。
一番好きっていうのは、
その人の好みにぴったりハマらないとなれないわけですね。

そうか、なるほど。
ダーツでド真ん中を狙うんじゃなくて、
的から外れないようにする感じでしょうか。

そのとおりです。
的に確実に入れた上で、
真ん中も狙えるし、隅も狙えるしっていう風に、
どこでも狙えるようにするっていうのが目標です。

誰にとっても、
これは美味しくないに入らないだろうっていうところを
まず出すってことなんですか。

そうです。
美味しくないっていうと、言葉が良くないですけど、
要するに苦いと酸っぱいを出さないっていうことですね。

苦すぎたり、
酸っぱすぎたりさせない。


そう、口に残る苦さってのは、
いわゆる焦げてるってことなんですよ。
で、えぐみのある酸っぱさっていうのは、不十分な加熱。
お肉で言えば、焦げたお肉と生焼けのお肉です。

なるほどなるほど。

それを出さなければ、
「美味しくない」「まずい」は出てこない。
まずそれをしっかりやろうっていうところですね。

今飲んでいただいてるコーヒーも、
時間が経って冷めても、嫌な味が出てこないと思うんです。

たしかに。
ちょっと酸味はあるけれども、嫌な酸っぱさじゃない。
普通は時間が経つと、もっと酸味が出てきちゃいますよね。

だけどコーヒーらしい風味も残っていて、
時間をかけてゆっくり飲んでいただいても
「美味しくない」が出てこない。
こういうのを作るっていうのは1つの目標としてました。


そうなってくると、
そもそも使ってる豆が重要なんでしょうか。

その通りです。
色々飲み歩いた結果、
一番の基本は焙煎にあるっていうのが、
自分なりに考えた結論でした。

それに、焙煎をしっかりとやっていけば、
産地に行ける可能性が高くなる、ということもあって、
焙煎を専門にすることにしました。

産地に行ける可能性が高くなる。

焙煎をしてる人間は、シェフと同じなので、
原料を見に行って、買い付けることができるわけです。

はい。

で、買い付けたものを焙煎して、
飲める状態にして売ることができる。
ということは、飲む人にも接することができて、
作ってる人にも接することができる立場が焙煎なんです。

バリスタと言われる、淹れる人たちっていうのは、
焼いたコーヒー豆を受け取って、
それをいかに美味しくするかっていうのがメインで、
そこにいると仕事として産地になかなか行けないんですよ。

そうですね。
与えられた豆の中で勝負するしかない。

だから、カフェをやるにしても、
現地にも行けるようになりたいから、
焙煎をできるようにならないといけないっていうのが、
当時、自分なりに導き出した結論でした。

なるほど、
絶妙なポジションなんですね。

焙煎をやっている方でも、
現地に行く人は少ないんじゃないですか?
焙煎はやっても、あまり現地には行かないでしょう。

はい、行く人はあまり多くないと思います。

現地に行きたいと思って、
行けるもんなんですか?


行くだけなら行けます。
お金を払えば行けるので。

商社さんが、みんなを連れて行って、
得意先の農園をまわるようなツアーもあって、
それに参加して行く人たちもいます。

ここがウチの会社が豆を買ってる農園です、
って案内するわけですね。

だけど、僕が目標としてるのは、
連れて行く側になることなので。
だから、そういうツアーには参加しませんでした。

どうやって、
現地の農園に渡りをつけるんですか。

そのために味を見る力、
要は鑑定士としての力を磨くことが、
次の僕の目標でした。

なるほど。

実力を認められる鑑定士になれば、
「あいつが評価したものは消費国で売れる」、
っていうことになっていくので、
現地から声がかかるようになるんです。

そういう人は必要ですね。
商社が買い付けをするときも、
そういう目利きを連れていかないとダメですしね。

そういうことで、
味を見る力があって、美味しく焙煎することができて、
売煎したコーヒーを消費者まで届けられるのなら、
たとえ個人であっても、産地に行けるようになるっていうのが、
僕が目指したことでした。


いやー、すごい!
オリジナルですね。

コーヒーやる人って、
じゃあ喫茶店やろう、ってなって、
コーヒーの道に進む人は多いと思うんですけど、
完全にもう、前例のない未開の道を行ってますね。

そういうのが好きなんですかね。
あんまり他の人の真似をするというよりは、
自分が行くところはどこなんだろう、
っていうところから考えるタイプなんです。

やってる人が既にいるかいないかで選ぶんじゃなくて、
たまたま、自分のやりたいことをやってる人がいなかっただけだと。

で、何より、産地の人に、この日本を見てもらいたい、
または日本の人に産地を見てもらいたい、っていう風に、
生産国と消費国が相互を知るっていうことが、
僕の中で、大事だと思ったんです。

産地のことって、
日本からすると馴染みがない国だから、
よく知らない場所が多いですね。

そういう風に、産地と消費地をうまくつないでいきたいっていう、
その架け橋的な位置を狙って、ずっとやっています。

今は焙煎の講習をして、若い次の世代の方とか、
セカンドキャリアでコーヒーをやりたい方に教えるのが、
ちょっとずつ形になってきているところです。

家で飲んで美味しいのが一番

1つの人生で、
コーヒーの焙煎士と警察官の両方をやる人って、
なかなかいないでしょうね。
ナカジさんが警察官だった頃ってどんな感じだったんだろう。


当時の写真があるので、
見てみますか?

ぜひぜひ!

これは機動隊にいた時ですね。


おおー、すごい。
みんな同じ格好でヘルメットだから、
顔がわからないけれど。

ここにいた人間が、
今はコーヒーをやってるってのは不思議な話です。

ほんとですよね。

だけど、
こういう経験があったからこそ、
今があると思ってます。


あ、そうですか!
繋がってますか。

繋がってます。
美味しいものを口にすると、
みんな笑顔にはなってくれるので。
僕は料理は作れないですけど、
そういったことは繋がっています。

昔も今も、人に喜んでもらいたい、
が動機にあったっていうことですか。


そうです。
家族で過ごす時間って一番大事だと思ってます。
小さい時に親に大事にされたとか、
ちょっとでもいいから楽しい時間を過ごした経験をしている人は、
安易に人を傷つけない、と体感的に思うんです。

はい。

この仕事は、そこで役立つと思ってるので、
カフェでやるというよりは、
家で飲んでもらいたいなっていうのは一番にあります。

知ってる方がコーヒーを買って、
お子さんが家で淹れてくれて、それを飲んでいる、
って話を聞くだけで、僕は嬉しいです。

カフェっていう場所だと、
家族で一緒にっていうよりは、
一人時間を楽しむみたいなことが多いですもんね。

そうですね。
気持ちをリセットしたりとか、
気分転換の場も必要と思うんですが、
そこはまた違う方にお願いして。

私は、家での時間を豊かにする方法を提案していきたいなっていうことで、
コーヒーの焙煎の世界に飛び込んでみました。

だから、気持ちは、
最初の仕事を始めた時と同じです。

そうか、どちらも、
幸せな時間をもつ手助けをする、
というような動機だったんでしょうか。

もう本当に、
みんなが平和に暮らせる世の中に貢献するっていうことが目標で。
ただ、その当時は、
どんな仕事がどういう効果を生むか、
っていうところの理解が浅かったんだと思います。

悪を取り締まるというか、
そんな単純なもんじゃないですけど、
世の中のためになることをしたい、
みたいなことだったんですか。


そう、それをやれば犯罪が減ると思ってたんですね。
けど、減らないんだなっていうのが、やってみてわかって。
減ってはいるんだけれども、やっぱりなくならないというか、
取り締まる側じゃ遅いんだなっていう。

そもそも生み出さないようにすることの方が重要だと。

取り調べで向かい合って話を聞くと、
子供の頃に家庭や両親がうまくいってなかったり、
家の中で自分自身が大事にされない経験を、
多くの人が持ってたんです。

ってことは、
家庭の中が円満であることが何よりも大事で。
カフェをやってる時も、
お家で飲んでくださいねって、言ってました。

だから、
誰が淹れても美味しく飲めるように、
時間が経っても、冷めても、
美味しいコーヒーになるようにしてるんですね。

そうです。
家で美味しいねって言ってもらえるのが一番。
そういうところに行き着きます。

最初にお店をやってた時のコンセプトを
言葉にしたのがこれなんですよ。


うわー
これは素敵だなあ。

主役はあくまで家族であって、
その人たちが暮らす時間の中に、気分をよくする、
美味しいものがちょっとあるといいなって。
それはコーヒーでもいいし、お菓子でもいいし、ジュースでもいいんだけれども。
それが一番の根底の思いです。

当時は、家で、ほんとにもうギスギスした人間だったので、
上の娘はもうね、僕に対して怖いイメージしかないっていう。
下の娘は、そんなの知らないから、
まったく先入観なく接してくれますけど。


お父さん、昔そんなだったの!?
っていう感じですよね。

このまま進み続けると、
自分が家族を壊すっていう危機感は、すごく感じてました。
だから、自分自身が変わらなければっていう気持ちでしたね。


イメージなんですけど、あらゆる職業の中で、
最もストイックに身を捧げる仕事のような印象はあります。

で、しかも、その仕事が好きだったので、
そっちにどんどんのめり込んで、
家庭をないがしろにね・・してたところもありますので。

そうですか、ないがしろに。

してました。
はい、してました。
いろんな反省を踏まえての今です。

今のナカジさんとお話しができてよかった。
今日はすごくいい時間になりました。
(2024年5月 軽井沢「COFFEE ROASTERY NAKAJI」にて)

清水宣晶からの紹介】
ナカジさんこと中村元治さんは、軽井沢でコーヒーの焙煎の仕方を教える、いわばコーヒー屋のためのコーヒー屋です。
ご自身でももちろん美味しいコーヒーを淹れられますが、それよりもコーヒーを上手に淹れられる人を増やすことを好んで、裏方として様々なカフェのサポートをしています。

ナカジさんの穏やかな物腰からは想像がつきにくいですが、以前には刑事として第一線で活躍をしていて、剣道と柔道で鍛えられたハンパない身体能力の持ち主です。

ナカジさんは、その経験のユニークさに加えて表現力が抜群に高いので、おしゃべりをしていてとにかく楽しく、このまま僕一人の中だけに話しを留めてしまってはもったいないと思い、今回あらためてお話しを聞きに行かせていただきました。

面白いと思うのは、ナカジさんは、刑事としてもかなりの適性を持っていたということです。そのまま続けていたとしても、優秀な刑事として功を成して、名を残したはずだと思います。でもナカジさんは、本当に自分の心の望む方向に舵をきって、コーヒーの道に進みました。

まったく違うように見える、刑事と焙煎士という2つの職業が根底では繋がっているということを知って、僕は本当に、人生というのは味わい深いものだと思いました。

ナカジさんは場の作り方がとても上手く、話を自然に引き出すということにおいて、僕が遥かに及ばないぐらいに、たくさんの引出しを持っています。
お話しを聞きに行ったはずがいつの間にか、ナカジさんに促されるままに自分のことをあれこれと話していて、こんな不思議な経験は初めてだったなと気がつきました。
僕はナカジさんとおしゃべりする時間が、めちゃくちゃ好きなのです。

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