藤田伸一
2008年4月より2012年までオフショア開発会社代表としてベトナム・ホーチミンに駐在し、現在のベトナム・オフショア・ソフトウェア開発の基盤を構築した。 現在、エストニアのデータ連携基盤、ID基盤を民間に拡張して展開するPlanetway Japanの常務執行役員COO兼CTO。(前 Planetway Europe CIO) 取締役CTOを務めた株式会社エボラブルアジア(2016年マザーズ上場。2017年東証1部に昇格)は、現在、東南アジア最大の日系オフショア会社を傘下に持つ。 過去に3回起業し、3回のバイアウト・事業譲渡経験がある。 広島生まれ、神戸育ち。 コンピュータに触れたのは小学生の時で、13歳で既にプログラムを雑誌に投稿していたコンピュータ少年でもある。 http://pb-100.appspot.com/Pio.htm // 『SPACER』 藤田 伸一 PB-100+増設RAM 【PiO'85,3 P.180 『PiOなゲーム人気投票結果発表』 PiO編集部】“’84年度PiOなゲーム・人気投票 ポケコン部”にて得票.// 早稲田大学 第一文学部 西洋哲学専修を卒業。卒論はカントとニーチェ。 大学卒業後、日本のコンピューター・システム会社を経て、America Online(AOL)の日本法人で、技術部門の責任者を務める。 その後、いくつかの会社を創業した後、株式会社デジパに取締役として参画、2008年に単身でベトナムに渡り、オフショア開発ソフトウェア会社 Digiper Vietnam をホーチミンにて立ち上げる。 その後、同法人を売却後、いくつかの会社のベトナムオフショア開発企業の役員を歴任。2019年現在、ベトナムは日本からNo.1のオフショア開発先だが、その基礎を作り上げた。 技術部門長を務めたベネッセコーポレーションでは、デジタル学習サービスの基幹システムの開発を担当。ベネッセはその翌年黒字転換。 グローバルな技術を日本のマーケットに展開・拡張し、事業をインターナショナルな環境で短期間で黒字化することを得意としている「CTOにして再建屋」。 参考資料: ベトナム最大規模のオフショア開発会社をゼロから作った藤田伸一氏に聞く、開発プロジェクトを成功へ導く3つの要因 http://engineer.typemag.jp/article/offshore-dev チャットワークでベトナム人社員140名を完璧にマネジメントできるようになりました https://go.chatwork.com/ja/case/vitalify.html |
(2019年2月 神谷町「LAVAROCK」にて)
データの主権を個人に
(清水宣晶:) おお!すごく雰囲気いい店だね。
(藤田伸一:) テーブルが大きいほうがいいって清水くん言ってたから、ここがいいかなと思って。
そうそう、こういう場所は最高だよ。
(店員さん:)ご注文お伺いします。
僕は「グリルランチ」とアイスティーを。
僕は「ワールドランチ」とアイスコーヒーをください。
これは、、ハンガリーの料理なの?
初めて見た。
ほんとに「ワールドランチ」って感じで面白いな。
今いる会社も、ものすごい国際性豊かな会社で、文化も多様で。
15カ国ぐらいの社員がいる。
あ、そうなんだね。
さっきまでしゃべってたのはチェコスロバキアの人で、最近入ってきた人はバングラデシュの人で、一緒にプロジェクトをやってるのはカナダ人で、みたいな。
本社はどこなの?
登記上は本社がアメリカなんだけど、日本とエストニアの合弁で、半分はエストニアの会社。
おお!そうだったの!?
それはタイムリーだなあ。
僕、昨年末にエストニアのeレジデンスの申請をしたところなんだよ。
そのeレジデンスにも関連してくるんだけれど、エストニアの個人データ管理の技術を日本に導入しようとしてる。
それは、eガバメントを導入するっていうこと?
というよりも、エストニアのeガバメントの基盤である「X-Road」っていうシステムがオープンソースなんで、あれを民間向けに拡張開発して、普及させていくっていう感じで。
そうか、政府じゃなくて民間で使うんだね。
そう、銀行同士をつないだり、保険会社で保険金の請求をデジタル化したり、物流を見える化したりね。
「X-Road」っていうのは、国が管理しているデータを民間に開放している、っていうところに意味があるわけでしょう?
民間だけでやっても価値が生まれるものなの?
国が持っている情報って何なのかって考えたとき、まず、「個人認証ってなんだ?」っていう話しがあってさ。
民間であっても、個人を特定することが出来れば、べつに国じゃなくてもいいんですよ。
国民全体をカバー出来る規模のデータを持っている企業だったら、同じことが出来るってことかな。
たとえば銀行をつなげば、それだけで数千万のIDがあるわけでしょう。
昔ベネッセで情報漏えいがあったけど、その件数が4千万件。
うんうん。
てことは、データ自体は4千万件以上持っていたってことなので。
だから民間でも、それぐらいの規模のデータは持ってるんですよね。
なるほどなあ。
逆に考えると、国でしか出せない固有データっていうと、戸籍とか住民票、健康保険とか税金関連のデータぐらいなんじゃないかな。
クレジットカードを1枚も作ってなかったり、まったくどこにも会員登録をしてなければ、住民票にしかデータがない人もいるだろうけど、そういう人はあんまりいないだろうね。
で、プラネットウェイでは、個人情報を集めてビッグデータを作りたいっていうわけじゃないんですよ。
個人のデータが、大手企業が個人の許諾なしに使っているところを問題視していて、「僕はこの情報を渡してもいいですよ」っていう許諾を取った上で利活用してもらう、っていうことをやろうとしています。
なるほど。
『データの主権を個人に取り戻す』っていうのがビッグビジョンで、データの力で世界を変えようって本気で考えてるんです。
ヨーロッパだと、GDPRみたいな法律もできてるし、もともとそういう、個人情報保護の意識が高いよね。
そう、GDPRに対応する形で、データを個人のものにしていきたい。
今日来る前に、清水くんにうまく説明できないかなと思って、考えてきたことがあって。
うんうん。
「ヒトゴト」のコンセプトが面白いっていうのは、僕、昔から言ってたと思うんだけど。
「ヒトゴト」って、清水くんがインタビューして編集はしているけど、アップする前の最終の部分って話し手にゆだねているじゃないですか。
文章の管理権限を渡して、管理画面から好きなように編集出来るし、削除も出来るし。
話し手としての権利がちゃんと守られているなと思って。
それは、すごく重視してる。
どこか内容を修正したくなった時に、いちいち僕に変更を依頼するのってストレスかかるじゃない?
だから、本人がいつでも自由に修正ができたほうがいい、と思ってる。
そういうデータの扱い方をするべきだ、と思ってて。
今、フェイクニュースもたくさん出回っているけれど、ここに出ている話しは本物なのか?ってなった時に、インタビューの原稿に対して、たとえば二人で電子署名をかけた時にはじめてアップができるようにすれば、フェイクじゃないっていう認証ができるでしょう。
インタビューであれば、そういうことがしたい。
そうか、なるほど。
別のやり方としてさ、今、動画のコンテンツって増えてきてるけど、文章に比べて動画って、生に近い内容を伝えられるでしょう。
動画をノーカットで配信することで、内容の正しさを担保するっていうのはどうなんだろう?
それも、ありだと思う。
ありだけど、動画も編集技術が向上していって、編集が加えられているか人間にはわからないレベルになっていくと、やっぱりそれが正しい情報なのかっていう判別は必要になると思う。
そうか、大事なのは、話し手と聞き手の両方が「この内容は正しいものです」っていうことを承認する仕組みなんだね。
そう。
その部分を、電子認証であったり、エストニアで既に実用化している技術を使って作り上げたいっていうのが、今やっていることですね。
そのデータにはもっと価値がある
前にデジパという会社に参画した時も、社長の桐谷さんのビジョンとか人柄に惹かれて、っていうのが大きな理由だったけど、今の会社の、平尾っていうCEOもすごくぶっ飛んでて面白い人で。資本主義を超える新しい社会を作るっていうことをずっと本気で言っていて、いい意味でクレイジーなんですよ。
そういう社長がいるベンチャーっていうのは、働いてて楽しいよね。
僕自身も、「働き方改革」っていう言葉が流行る前から、会社とか個人の生き方がどうなるのかとか、新しい働き方はないかなって、ずっと考えてきたわけで。
そういう文脈の中で、なんか、もっと面白い働き方をしたいなあって。
藤田さんは、職の移り方が面白いよね。
つながりはあるんだろうけれど、次々とワープしていくからさ。
僕は会社を乗り物と考えていて、それを会社も認めてくれるから、やりやすい。
自分がやりたいことがあって、その時にたまたま乗り物があるなら乗っていく、っていうスタンスになっているんだと思う。
だから、会社の名刺をもらって動いているけど、気分はフリーランス、みたいな。
なるほどね。
今は常務執行役員をやっているけど、今まではいくつかの会社で取締役や社長をやっていたわけじゃない?社長や取締役って、契約としては業務委託なんで、雇用保険ももらってないし、考え方はフリーランスなんですよね。
形式的には、1年ごとに契約を更新したりするから。
そうかそうか。
言われてみれば、取締役の立場って、かなりフリーランスに近い形になるんだな。
今ZOZOにいる田端さんとか、ああいう人の考え方に近いかもしれない。
そうだね。
スーパーサラリーマン。
今、藤田さんが関心があるのってやっぱり、やっている仕事のこと?
今は仕事が一番、関心があるし面白いね。
ここ最近の間でも、藤田さんはいろいろと転職してるけど、やってる内容も変化してる感じがするな。
なんか要は、面白いことがやりたくて。
最初は、世に出たばかりのインターネットをずっとやってきて、その後にベトナムでオフショア開発のことをやって。
で、その次になにか面白いことないかな、っていう時に、教育(EdTech)も面白いかなって思ったんだけど、2年間やってみて、これは結構難しい領域だなっていうことがわかった。
うんうん。
なんかね、僕自身が、ITの中で興味を持てるトピックがだんだん少なくなってきて。
面白いトピックがないなーと思ってるときに、プラネットウェイでやっていることはすごく面白いな、と思ったんだよね。
今、googleが検索アルゴリズムを独占するから、どんどんつまらなくなっちゃって。
facebookも、ページビューを上げるようなアルゴリズムが優先されて、それは面白さとはまた別じゃない?
そういうのをひっくり返したいなあと。
そうか。
どう面白くなるんだろう?
今、googleとかで見ている広告って、強制的に見せられてるじゃないですか。
それはテレビ時代から変わっていないことなんだけど。
広告を見させられる代わりに無料だよ、っていう感じなのを、「自分に広告を見せるために、個人データを使うのは認めるけれど、その代りに広告料をちょうだい」っていうことを決めればいい、っていう考え方で。
今のお金の流れでいうと、たぶん、ベーシックインカムぐらいのお金は生まれるんじゃないかな。
そうだね。
莫大な金額がネット広告に流れているから。
今は、広告を見る対価としてgmailとかがタダで使えてるけど、もっともらえるはずだ、っていうことかな。
そう、勝手に個人の情報が取られすぎてるんで、そこは対価を払おうよ、っていうモデルにするべきっていうことなんです。
でもまあ、たしかに勝手に使われてはいるんだけど、そのことによっていろいろ便利にはなってるから、あんまり文句も出ないんだよね。
パーソナル履歴を使われることで、ものすごく役に立つ情報をもらったりしてるわけじゃない。
それはそのとおりで、ほんとに便利なんだけど、ポイントは、その個人のデータは、もっと価値がある、っていうことなんじゃないかな。
いやー、それはたしかにそう思う。
気づいてないのをいいことに、取られ放題な感じはあるね。
amazonとかfacebookとかの取り分が多すぎる。
でもほとんどの人は、現状に満足をしているよね。
むしろ、「タダでこんなに便利なものを使わせてくれて、グーグルさんありがとう」って感謝をしてる。
自分の情報が、googleに何兆円もの利益を与えているっていうのは、意識してないね。
そう、そこが問題なんじゃないかなと思う。
エストニアと日本
Tポイントなんかも、会計の時にカードを出すとポイントついて嬉しい、って言っても、それと引き換えに、どれだけの情報をあげてんだっていう。CCCは、もし捜査令状なしに情報出してたんだったら、情報公開についてのプロシージャがなかったっていうことなんで、どんな情報でも構わず出してた可能性があるってことなんですよね。
だからTポイントカード持ってたら、「いつもこのへんで飯を食い、コンビニでこんなものを買い」って、勝手にプロファイリングされててもおかしくない。
そうか。
でも一方で、自分みたいな一般市民の買物履歴を誰かに知られたところで、まあ別にいいかって気持ちもある。
Suicaを使わないと電車乗るのも面倒だし、情報を渡さないっていう抵抗は、もう、ある時期からあきらめたかな。
スピルバーグ監督、トム・クルーズ主演の『マイノリティ・リポート』って映画あるでしょ?
ほんとに、ああいう世界になっちゃう可能性があるよ。
そうか、ビッグデータとAIが、未来の犯罪を予測するんだね。
行動履歴を細かく取られてたら、清水くんが、自分はそうじゃないと主張しても、「この時間にこのルートをたどって神谷町に来て、藤田に会っているのは普通じゃない」って判断されて、この店を出た瞬間に逮捕されるかもしれない(笑)
ぶはははは!
「98%の確率でこの人は、これから人を殴ります」って。
そうならないとも限らない。
映画の嗜好履歴の情報なんかは、かなりヤバいと思いますけどね。
ああ、ホラーとかバイオレンス系の映画が好きとか。
まだデータは少ないからできないと思うけど、犯罪をおかした人の行動履歴を分析して、共通項を洗い出したら、みんな『寅さん』が好きだった、とか不思議なパターンが見つかったりするかもしれない。
(笑)人間には気づくことができなかったパターンが見つかるかもね。
そんなことを考えながら、今の子供たちが大きくなった時にどんな世界になるんだろう、って思いながら仕事してる。
それは思うよね。
オレらが経験してきた10年間と、子供たちがこれから経験する10年間じゃ、変化のスピードが全然違うから。
今、自分の個人情報って、片っ端から大手企業が簒奪してくわけですよ。
でも、たとえば誰かが健康の情報とかを発信したとしても、最終的にgoogleのアルゴリズムが勝っちゃうんで、それが正しいものかどうかわからない、みたいな話になっちゃうときに、「藤田伸一」っていうこの名前だけは守れるところがあって。
大企業であっても、この名前だけは奪えないんですよね。
おお、、なんかそれは結構、哲学的な話しだね。
哲学的な話しですね。
そうか、わかってきたわ、藤田さんの興味がどこにあるかが。
どれだけ個人データが奪われたとしても、僕の固有名だけはなり済ませないぞ、と。
『千と千尋の神隠し』も、そんなテーマだった気がするな。
じゃあ、これから、どうしていけばいいんだろう?
個人情報を渡すっていうのは、便利さとトレードオフだからさ。
個人情報を守りながら生きていくっていうことはできるのかな。
その答えは一つで、「許可を取らせること」。
それだけです。
「データを取っていいですか?」っていうのが、なんか変なポップアップみたいな形じゃなくて、きちんとわかりやすくページに表示されて、本人の許可を取るっていうことをやる。
IDに紐付いて、どの企業にデータを渡していいかっていうのを決めて、履歴も全部残るし、途中で削除も出来る。
いったんデータを渡したとしても、漏洩があったような時に、自分がデータをストップしたいっていうときにデータが絶対に他に流れないっていう仕組みが必要で。
それは、実現したら素晴らしいね。
プラネットウェイでは、それを実現しようとしてるんです。
でも実際、データがきちんと本人の希望したとおりにきれいに削除されてるかどうかって、確かめるの難しくない?
そのために今、ホワイトハッカー部隊を社内で育成してます。
ほんと、『攻殻機動隊』の世界みたいな話しで(笑)。
「勝手に情報溜め込んでるヤツいねえかー」って、見てまわってるんだね。
そういう、個人データの透明化を、今の世界で一番具体化してるのが、エストニアのeガバメントなわけだ。
そうですね。
ICカード保有率が99%超えていて、もうみんな、普通にあらゆる行政手続きがデジタル化されているのが当然になっていて。
そうなんだ?
話しを聞いてるだけだと、いまいち実感としてわからなくて。
行かないとわからないかな。
行かないとわからないし、行っても表面上はわからないんですよね。
見た目は古き良き旧市街にしか見えないので、実際に暮らして、生活をしてはじめて違いがわかるっていう。
5月に、タリンで「Latitude59」っていうカンファレンスがあるでしょう?
僕、あれには参加しようかと思ってる。
おおお。あれ、僕も行きたいと思ってるんですよね。
それは、日本にもエストニアにもスタッフがいるので、行く時に言ってくれれば、いろいろと紹介します。
ほんとに!?
エストニアという国は、今、本当に面白い。
エストニアに行くのがすごい楽しみになってきたよ。
今日は藤田さんに話しが聞けてよかった。
あとは、この音声データをAIに入れたら、自動で全部書き起こして、いい感じのインタビューに仕上げてくれるわけだよね?
(笑)そうしてくれたら最高なんだけどね。
まだもうしばらくは、「ヒトゴト」の編集は人間にしかできないと思う。
(2019年2月 神谷町「LAVAROCK」にて)