滝田佐那子

滝田佐那子(たきたさなこ)1984年(昭和59年)東京浅草出身。実家は仏壇屋。佐那子とゆう名前は司馬遼太郎「龍馬が行く」に出てくる千葉道場の娘「千葉佐那子」から名づけられた名前。故に(?)坂本龍馬と幕末を深く愛する。大学時代はウィンドサーフィンの競技活動に全力を注ぎ、2006年度インカレ優勝とゆう結果を残す。趣味は沖縄民族楽器三線(になる予定)。
とにかくなにごとも一生懸命全力でするのがすきなんです。
(2008年3月 沼部「森村邸」にて)

天才だけが見えている世界

(清水宣晶:) たっきーは、今、関心を持ってることある?

(滝田佐那子:) 今ね、ZONE(ゾーン)が気になってる。
私、「め組の大吾」が好きなのね。

お、じゃあ「昴」も好きでしょ?

そう、「昴」も好き。
天才だけが見えている世界がどんなものなのかって思ってて。

【※ZONEとは
「昴」8巻より
『スポーツ医学の分野で最近になって解明されつつある現象で、真のトップアスリートのみが入れる次元があるらしいのです。
あるアルピニストの証言ですが、滑落の瞬間、頭の処理速度が現実についていけなくなるというか・・すると不思議な現象が起きるんです。
まず周囲の”音”が一切聞こえなくなる。
次に”色”が消えスローモーションの世界。
極度に集中する瞬間、人間の脳はそのとき、最も重要な情報だけに絞るんです。
音が消え、色が消え、その状態に入れた人間には、通常不可能なことが可能になる。
「ZONE」と呼ばれる現象です。
まだ見えない曲がり角の先が見えたり・・するとも言います。』】

自分がウィンドサーフィン優勝した時、ZONEに近いものが見えていたんじゃないかと思うの。
あの競技って、海の上のどこを通っていくかでだいたい勝敗が決まるんだけど、その時は、行くべき道がわかったのね。

ラインが見えたんだ?

そうそう。
で、そっちに行ってみると、本当に絶対、いい風が吹いてたの。

うんうん。

ウィンドサーフィンの神様が「こっちだよ」って教えてくれたような感じなの。
でも、その状態にいっつも入れるわけじゃなくて、入れる時と入れない時があって。
その状態に自分の意のままに入れる人を天才っていうんじゃないかと思う。

すげー興味あるよ、その話し!

その、ZONEに入れるルールみたいのが見つかったら無敵だなあと思うんだけどね。

イチローはさ、完全に自分の毎日の行動パターンを決めていて、それでリズムを作ることで、集中を研ぎ澄ませるって言ってたなあ。

毎日カレーを食べるとかだよね?

そうそう。
正月にNHKでやってた「プロフェッショナル」見た?

見た!
そういう天才に、なれなくてもいいから、興味があるんだよね。
あこがれる。

まあ、神っていう言葉がふさわしいかわからないんだけど、
たっきーが優勝した時の大会では、自分の力じゃないものって、感じた?

それは、すごく感じた。
その大会の時は、自分の実力って、全体の3番目くらいで、3~4人が同じくらいか、私が少し下ぐらいのところにいたと思うんだけど。
なんか、運だけじゃ片付けられないような力を感じた。

それは面白いなあ。
そういう経験があるってのは、でかいなあ。

でも、その後は、全然その状態に入れてない。
「ここだよ」って神様に教えてもらってるような感覚は、あれからどれだけ大会に出ても起こってないな。

それが意図的に出来る方法があったら、ぜひとも知りたいよね。

知りたい、知りたい。

まあでも、たっきーが優勝した時もそうだけど、実力的にほとんどトップの人達と同じくらいの力を持っていることは、ZONEの状態に入る最低条件なんじゃないかと思うな。
その時の精神状態ってどうなってるの?

緊張と、弛緩の中間の状態。
震えるぐらい緊張しちゃうのが右に振り切った状態で、逆にやる気が出ないのが左の状態だとすると、その真ん中。

そうか。
イチローが、自分の行動パターンを型にハメてるってのも、その丁度いい精神状態に持っていくための儀式みたいなもんなんだろうね。

頭と体のコントロール

オレ、ずっと疑問に思ってることがあるんだけどさ。
いざっていう時に思い通りにコントロールしやすいのって、頭と体のどっちだと思う?

あー、それはどっちなんだろう・・。

プレッシャーがかかっている時って、体が思うように動かなくなるじゃない。

なるなる。

それは、頭でも同じだと思うんだけどさ。
どっちがまだマシに動くのかなと思って。

どれだけ反復練習をしているかってところにあると思う。

体の場合、緊張した時はどうやって落ち着かせてる?

とにかく、体を動かすね。
あー、やっぱり頭のほうがコントロールしやすいかな。

まあでも、体ってさ、たとえば自転車に乗るのとかって、結構複雑なことやってるけど、体が覚えてて勝手に動く感じもあるじゃない?

でもそれは、本番の時はそうならない。
何百回やってきた練習であっても、スルって手を滑らせたりあるし。

イメージトレーニングってする?

するね。

オレはさ、普段イメージトレーニングってやったことないんだけど、それによってどのぐらい自信がつくものなの?

私は、イメージトレーニングをやっていても、あんまり本番に対する信用は出来ないと思ってて。
練習レースへのイメージとかは出来るんだけど、本番は、イメージをしてそこに持って行くっていうより、その状態に「成るもの」であって。
やっぱり、精神状態は、イメージしたからってそうなれるものじゃないね。

本番の前には、どうしてるの?

やっぱり、行動パターンを決めてるかもしれない。
朝5時に起きて、誰よりも早く浜でセッティングをして、誰よりも早く道具の準備が出来ている状態にして、海を散歩して、とか。
それが心地いいな、っていう状態に持っていくのかな。

それはイチローっぽい感じあるね。

そうか、その方法を自分なりに確立できたら、ZONEに近づくのかもね。

うん、オレもあの、行動パターンをルーチン化することで心が落ち着くっていう感じはわかるな。

ウィンドサーフィンという競技

たっきーは、かなり本格的にスポーツをやってきた人だと思うんだけど、自分を鍛える過程で、「極限までいった」っていう経験はある?

肉体については、そんなにない。
競技特性があって、ウィンドサーフィンって、体を鍛えたからいいってもんじゃない競技だから。

そうすると、何で勝負が決まるの?

同じ風の中でどれだけスピードを出せるかってのが一番わかりやすい要素だよね。
でもそれだけじゃなくて、いかに風があるところを見つけていくかと、近くを走っている相手をどう邪魔するか。
この、「スピード、対自然、対人」の3つだね。

そうか。
じゃあ、筋肉をつけたからいい、っていうだけじゃないんだな。

うん、見た目以上に、すごく戦術が重要なスポーツだね。

この前、ゆきちゃん(森村ゆき)に話しを聞いた時にも質問したことなんだけど、食べるものと体のパフォーマンスって関係あると思う?

ああ、たとえばカップラーメンと、ちゃんとした食事、っていうのを比べた時にはもちろん違いはあると思うんだけど。
あまり極端じゃない限りは、精神的な影響のほうが大きいんじゃないかな。

精神的な影響っていうのは、ちゃんと食べたから大丈夫だろう、っていう安心感だね。

うん、自分の場合は、それが大きかったかな。
陸上とか、純粋に体の運動を極める競技はきっと関係あるんじゃないかなあと思うんだけど、ウィンドサーフィンはやっぱり、精神的な部分によるところは大きいね。
(2008年3月 沼部「森村邸」にて)

清水宣晶からの紹介】
たっきーはとても小さな体をしているけれど、ウィンドサーフィンをひたすらに頑張ってきた、根性のある人だ。とても楽しそうによく話す子で、一見したところは普通の女の子だけれども、素直ではきはきとしていて、一緒にいると海で鍛えられたすがすがしさが伝わってくる。名前が、千葉佐那子に由来しているというのは、言われてみれば納得だ。たっきーは、日本の女性の凛とした心意気を現代に伝える役目を持って生まれた人なのだろうと思う。

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