大野雅子


東京都杉並生まれ杉並育ちの美容師。
実家の美容院で髪を切ったり、
出張で出かけてヘアメイクをしたりしている。
(2014年8月 「リオ美容室」にて)

出産まであと2週間

(清水宣晶:) あれ?
お店のシャッターが閉まってるな・・


(メールで到着の連絡をする)

(大野雅子:) いらっしゃい。
どうぞどうぞ、中に入って。
さっき、母が突然シャッター閉めて、
お出かけしちゃったの。

そうか、予約無しで
突然お客さんが来るなんてことはないから。


いや、あるある。
あるけど、「閉めまーす」って出かけちゃった。

自由な感じでいいね。
・・・・・ん!?
なんか、ものすごく暑いけれど?

ごめん、あっきーが来る前に冷房入れておこうと思って、
エアコンのスイッチ入れといたら、
間違えて、ガンガン暖房になってた。

(笑)それでか。

見て、これ、
湿気でガラスが曇っちゃってるから。

ビニールハウスの中みたいな
空気になってるね。

髪、どのぐらい切る?


いつもと同じような感じで。
でも、次回はちょっと間が空いちゃうかもしれないから、
少し短めにしてもらおうかな。

了解。
では、いきます。

産まれる予定日は、いつなんだっけ?

8月24日。

あ、そう!
あと、もう2週間ないね。

ほんとは昨日の夜が満月だったから、
その時に産まれてくれるといいなー、と思ってたんだけど。
この時期、翔くんが忙しいってことに気がついて。
やっぱり、もうちょっと後でいいよ、
って赤ちゃんに言ってる。

次に会う時、
おまさは母になってるんだなあ。

そうだね。どうなってるんだろう。
自分だけでいる時間って、今が最後だもんね。

でも、おまさは、あんまり一人きりの時間て
必要としていないわけでしょう。

そう、それは全然大丈夫なんだけど、
私、仕事はこれからもずっとやっていきたいから、
それがちょっとどうなるか心配。
私一人だったらガツガツと動けたけど、
子どもも私ぐらい体力あるとは限らないから。

(笑)いや、産まれてすぐの赤子に、
そんなに体力あるわけないだろう。

そうだよね。
あと、私と違う趣味の子どもだったらどうしよう、とか。
家から全然出ようとしなくて、超インドアだったりしたら。

やっぱり、活発な子のほうが、
相性よさそうかな。

七五三の仕事とかで子どもと一緒にいても、
ちょっとうるさめの子のほうがいいんだよね。
親が、「この子は、ほんとに手がつけられなくて」
っていう子のほうが、
「わかる。じっとしてられないよね。」って共感出来るから。


もう、性別はどっちかわかってるんだよね?

そう!
100%じゃないんだけど、
たぶん、女の子。

そうか、それはよかったね。
女の子だと、口が達者で話してて面白いから。

そうなの!
私、口ゲンカとか超したい。

おまさには、男の子じゃ、
話し相手としては物足りない気がするな。

そう、おしゃべりな男の子も、
たまにいてくれるけど、女の子がちょうどいい。
弟が産まれる時は、弟が欲しかったんだけどね。
神様、絶対男の子にしください、って。

あ、そうだったんだ?

理由は単純だったけどね。
一緒に遊べるから。
ウチ、お姉ちゃんがおとなしくて、
あんまりアクティブに遊ぶタイプじゃなかったから、
弟と外で一緒に遊ぶっていうのを望んでた。

変化のイメージ

産まれた後の、
生活の変化っていうのは、
どうなるのか、イメージついてる?

私、お姉ちゃんと子ども2人が
近くに住んでるのと、
あと、弟と歳が離れてたから、
それで結構、イメージはある。

あ、そうか。
それは、だいぶわかってるね。


そう、それを見てたから、
「これからの私は超大変、寝れないぞ」
っていうのはね、想像がつく。
お姉ちゃんも、すごい大変そうだったもん。
夜もなかなか寝つかなかったりで。

まあ、おまさの子どもだから、
夜パタッと寝てくれる可能性はあるね。

それは、よく言われる(笑)。
食べて、パタッと寝る、みたいな。
あと心配してるのは、
この前、バード(向井朋子)の子どもと遊んでてわかったんだけど、
私、遊び方が激しいらしい。
持ってるオモチャぐるぐる回したりして、
まわりで見てた人が「ちょっと激しくない?」って。

ぶはははは!
まだ小さい子ども相手なのに。

それは、気をつけないとと思って。
刺激を求める子どもになりすぎちゃっても困る。

まあ、毎日相手にしていたら、
おまさもそこまで体力持たないと思うけどね。

あとは、心配なのは、
やっぱり産む時だね。

ああ、こればっかりは、
その時になってみないとわからないからなあ。

私、痛みに強いほうだと思うから、
「痛いのがくる」ってあらかじめ思ってたら
大丈夫なんじゃないかと。


想像してたほどじゃないな、
ってなるかもね。

そうそう。
それなら耐えられるんじゃないかって気持ちに、
最近なってきた。
男の人はいいよね、
そういう痛みがなく、
子どもが手に入るわけだから。

そうなんだけど、でも、
オレは、もし出来ることなら、
身ごもるっていうのを、
自分自身の体で経験してみたい感じがするんだけどね。

そうだね、この、
お腹の中でポコポコ動いてるのは
面白いから、経験してみたほうがいい。


ぶはははは!
いや、それはべつにどうでもいいんだけど、
出産だよ。


ええ、ほんと!?

子どもを産むっていうのは、
やっぱり、人生の一大イベントじゃない。
男には、その重大なイベントが無いってのは、
ちょっと残念な気もする。

ええー!
痛いのイヤじゃん。

痛みも含めて、その経験は、
人生観変えると思うんだよなあ。

大野は途中経過のほうが全然いい。
今でさえ、赤ちゃんがちょっと動いて、
頭突きされただけで、痛くて、
子鹿ちゃんみたいになっちゃってるからね。

仕事に救われた

髪を切る仕事は、
今までずっと続けられてたんだ?
こんな、臨月どころか、
予定日の直前まで、スゴイね。

ね。
続けられちゃった。
シャンプーは、ウチ以外の場所だと、
前かがみになるからちょっときついけど、
それ以外は全然平気。
そもそも足腰が強かったからかな。


仕事しながら、運動にもなってるっていう。

そう、ある程度は動いたほうがいいし。
ダンス練習参加しようかなって思ってるぐらいだから。

そうか、もうすぐツアーの時期だから、
(※おまさが毎年夏に参加している、フィリピンの
孤児院を支援する団体「パラサイヨ」のツアー)

今ぐらいに、ダンスの練習があるんだね。

でも、9か月になったら思いのほか、
いろんなところが痛くなってきて。

そうなんだ?

骨盤とかも広がってるから、
寝返りも痛いの。
「あ、ジャンプするつもりだったのに、
ジャンプ出来ない」ってことになっちゃって。

ジャンプはやらなくていいよ!

思いのほか、動けなくなってきたから、
今は行ってないんだけど。

体操とかじゃなくて、
普通に激しいダンスをやろうとしてたことがスゴいよ。

最近それでおとなしくなっちゃって、翔くんに、
「9ヶ月になってようやく、普通の妊婦らしくなった」
って言われて。

それまでは、そんなに、
いつも通りの生活してたの?

そう、普通に。
バスが見えたら「あ、バス来た!」って
バーって走ったり。

(笑)走るなって。


一回、バス停にバスが停まってた時に、
そのまま歩いて行ったら、
待ってくれないで、出発しちゃったことがあったの。
これはもう、バスが見えたら走るしかないんだ、
っていうことを再確認しまして。

ちょっとこう、お腹を持ちあげて、
小走りすることにしたんだよね。

バスの運転手も驚いたと思うよ。
この、妊婦期間を振り返ってみると、
つわりとかの体調の変化ってのは、
結構あった?

結構あったほうだと思う。
肌荒れもひどかったし、
食べづわりで気持ち悪いのもずっとだったし。

そうか、そうか。
食べづわりってのも、ツラいね。

そう、それでずっと食べてると太っちゃうから。
我慢すると気持ち悪くなるし。

肌荒れもずっと続いてたのか。

そう、皮膚科に行って、先生が、
「今日はどうしましたか・・」って、
こっち振り向いた瞬間に、
「うわっ!」って言われたもん。

そんなに!?

真っ赤っかになってたから。
ステロイドを推奨しない病院だったのに、
ステロイド出されちゃったしね。
9か月ぐらいになってから、だいぶ落ち着いたけど。

それは結構、ずっと大変だったなあ。

でも、仕事が続けられてたのはよかった。
むしろ、仕事場に来てるほうが気がまぎれるから。

そうか、動いてたほうがいいんだね。

そう、しかも、人と話してるほうがいい。
そういう意味では、仕事に救われた感じがある。

そうだよね。
妊娠中も続けてられる種類の仕事でよかったよ。
おまさは、一人でじっとしてると死んじゃうからな。

そう、何もしないでいたりしたら、
やることなくて、ずっとボリボリと掻いてたと思う。

驚異の健康体のおまさでも、
さすがに体調の変化はあったんだね。

これはもう、年齢のせいっていうことにしてる。
「大野雅子」という生き物だった時間が長すぎたから。

ぶはははは!
そのせいで、体内の異物を受け容れるまでの
抵抗が強かったのか。

後悔の少ない生き方

もうすぐ怒涛の日々が始まるけど、
今のうちに、やり残したことっていうのはないの?


やりたいことを言えって言われれば、
いっぱいあるけど、でも、特には無いかな。
今はそれよりも、子どもを育てるのが楽しみ。

今考えると、エベレストも、
登れる時に登っといてよかったよなあ。

ほんと、そう。
とうぶん行けないよね。
子どもが大きくなって一緒に行けるぐらいにならないと。

で、その頃には、
もう、エベレストとか登るには
かなり厳しい歳になってるだろうし。

そうだね。
やりたいと思ってたことは、ほとんどやってたと思う。
面白いと思ったものは、だいたいその場で飛びついてたからね。

後悔の少ない生き方だね。
よし、、じゃあ、
そろそろ行こうかな。

うん、ちょっと!
次会う時はさ・・

母だよ!!

そうだよ、スゴいね、笑えるね。
われながら信じられないけど。
じゃあ、どれぐらい痛かったとか、
報告しますんで。


その体験談は、
ぜひとも聞きたいね。

「鼻からスイカじゃなくて、
まあ梨程度だったよー」とかね、
そのぐらいで終わってくれたらいいんだけど。

おまさの場合、
それも十分ありえるからな。

出産を終えて

うおおお、小っちゃいねえ。

(※この日、生後3日目)

超、小っちゃいんだよ。

どっちに似てるだろうかな。


ほとんどの部分、翔くん寄りなんだけど、
唯一、私寄りと言えるとしたら、目じゃない?
目のインパクト。

ぶはははは!
形とかじゃなくて、インパクトね。
たしかに、目力あるよ。
出産の時は、大変だった?

大変だった。
私、難産だと思ってたら、
「安産です」って言われたわけ。

あ、自分では難産のつもりだったのに?

すごいツラかった、と思ってたんだけど、
病院に着いてからは6時間で産まれたから、
それでみたい。

そうか、痛みって他の人にはわからないから、
客観的に判断するには時間しかないものね。

安産ですって言われても、
「納得出来ない!」って感じなんだけど。

陣痛からの時間は、短かったの?

前の日、
その時はまだ全然生まれる気配がなかったから、
大槻家のバーベキューに参加してて、
夜中に帰ってきたんだけど。

うんうん。

2時に寝て、朝4時に陣痛で目が覚めて、
それからずっと、
間隔が短くなるまで歩き回って、
病院には夜に行ったから。

じゃあ、始まりからのトータルとしては、
長かったんだね。

そう、病院に着いてからは割りと早かったけど、
それまでほとんど寝てなかったし、
病院に着く前がいろいろ大変だったんです、
って言いたかった。

お産の時のことって、
あんまり細かいこと覚えてる余裕なくない?

のんのん(大嶋望)が、あとで聞きたいって言ってたから、
割りと意識して覚えるようにしてたと思う。
鼻からスイカっていうよりはメロンだな、とか。

(笑)そこは結構、余裕あったんだね。

いや、でもやっぱり、
すんごいツラかった。

おまさをもってしても、
陣痛はツラかったか。

あまりに痛かったから、
自分の髪とか引っ張ってみたり、
いろいろ試行錯誤して。

痛みをまぎらわせようとしてたんだね。

先生が、
「押し出す力が強いほど、早く終わります」
って言うから、
「じゃあ本気で全力で行くんで」
って力入れたら、全身の筋肉が、
ブルブルブルブルってなって。


(笑)かなりの本気だね。

翔くんに「寒いの?」って言われて、
「いや、筋肉、筋肉」って。

ぶははははは!


フルマラソンと同じぐらいの体力が要るって
聞いてたけど、
フルマラソンよりずっと厳しかった。

そんなに・・
でも、その分、時間は短かったんだね。

それはもう、筋肉のおかげで。
途中で気がついたんだけど、
ヨガで習った姿勢を使うと
すごい力が入れやすいってわかったんだよね。

あ、自分でその技を編み出したんだ?

そう、そうしたら、
先生が「上手、上手!」って言うから、
なるほど!あのヨガには
こういう意味があったのか、って思って。

それ、他の人のためにも、
書き留めておいたほうがいいかもなあ。

そう、これから、
よしはるとミサのところも生まれるから、
この気づきを伝えて、参考にしてもらおうと思う。
(2014年8月 産院にて)
※前回のインタビュー(2008年6月)はこちら

清水宣晶からの紹介】
おまさは、健康的なエネルギーを持った人だ。
いつも、明るい笑顔を絶やすことがない。
髪を切るためというよりも、人と話すために美容師をはじめたというおまさは、とても自然に相手の中に入りこんでいってしまう。

その時に、まったく押しつけがましさや、居心地の悪さを感じないのは、彼女が常に相手の反応をきちんと確かめながら話しをしているからだ。
ぐいぐいと所構わず押し入ってくる、おばちゃんノリではない。関西ノリやラテンノリとも根本的に違う。
おまさノリとでもいうべき、この心地いいテンポは、人から話しを聞くことで学んでいく彼女に与えられた、天性の才能なのだと思う。(2008年6月)

今回、おまさの出産の時期に話しを聞かせてもらう機会があり、母になる直前と直後の気持ちをリアルタイムに聞かせてもらった。

出産という一大イベントを目前にしても、おまさの様子は普段と変わらず、直後には、その体験談をいつものように面白おかしく話してくれたけれど、その内面には大きな変化があったような気がする。

これまで、何者にも染められることのないマイペースを貫いてきた彼女が、娘が生まれたことで、初めて変えられていくのかもしれない。
この先、その時々の話しを聞きながら、おまさの変化を知るのが、髪を切ってもらう時の楽しみになるだろうと思う。(2014年8月)

対話集


公開インタビュー


参加型ワークショップ