ナカムラケンタ


1979年東京生まれ。
株式会社シゴトヒト代表取締役。

明治大学建築学科を卒業後、不動産会社に入社。
2007年28歳のときに退職し、
2008年に求人サイト「東京仕事百貨」(※現在は「日本仕事百貨」に名称変更)をオープン。
http://shigoto100.com/

生き方・働き方を考える本のレーベル「シゴトヒト文庫」や、憧れの職業を試せる場「リトルトーキョー」の企画・運営など、“仕事”をテーマにさまざまなサービスを提供している。
(2014年9月 虎ノ門「リトルトーキョー」にて)

まず、いいコンテンツを作ること

(清水宣晶:) 着いた。

ケンタさんは・・
バーカウンターのほうにいるのかな。

どうも、こんにちは。


(ナカムラケンタ:) こんにちは。
今日はよろしくお願いします。
飲み物、何にしますか?

あ、じゃあ、
辛口のジンジャーエールを。

僕は、ウーロン茶の氷なしを。
こっちの、広い部屋で話しましょうかね。
どこに座るのがいいでしょう。


離れた場所にカメラを置けるといいので、
その、真ん中のテーブルにしましょうか。
ちょっと、カメラをセッティングさせてもらいます。

ちょっと僕も、話しをしながら、
自分の考えを整理出来るように、
パソコンを持ってきます。

あ、それはいいですね。


(MacBookを持ってくる)
はい、大丈夫です。

今日は、ケンタさんに聞きたいと
思っていたことがあって。
その話しから、いいでしょうか?

どうぞ。


「日本仕事百貨」の求人記事って、
仕事場の雰囲気をそのままに伝えることに
かなり力を入れてると思うんですけど、
あの記事は、どういうふうにして、
書いているんでしょう。

僕らのやっている仕事は、
求人をしたい会社の仕事内容を取材して、
それを文章にする、っていうところが、
ほとんどと言っていいぐらいなんですよね。


そこに一番、
リソースを費やしている。

そう、まず、
いいコンテンツを作るっていうことが
一番大事だと思っていて。

その、取材の仕方や、記事の書き方で、
仕事百貨として共通の、
統一したやり方っていうのはあるんでしょうか。

そこは、マニュアル化は出来ないし、
やりたくないと思っているんです。

ああ!
そうなんですね。

僕らの求人記事って、
求人票の必要事項を埋めてもらうっていう、
一般的な求人広告のスタイルとは
まったく違うわけで。
どういう書き方なら雰囲気が伝わるか?
っていうことを、取材者が自分の頭で考えて、
記事を書くんですね。

取材ではいろんな情報を聞きますけど、
全部は伝えられないですよね。
取材したこと以外にもいろんな情報があります。
その時に大切なのは、
「一番伝えたい一つ」をまず絞る、
っていうことで。


なるほど。

たとえば、箇条書きみたいな形で、
ズラズラっと職場のことを書いた記事が
あるとするじゃないですか。
それだと、どれも頭に入ってこないですよね。

だから、求職者の立場に立って、
「ここが一番キモだよね」っていうところを探したり、
そのキモの部分がハマる人に対して、
どういう言葉で、どういう順序で投げかけると、
ちゃんとその「一つ」が伝わるかっていうところを
考えていくんです。
それって、マニュアル化出来ないんですよ。

記事は、仕事百貨のスタッフの人は、
だいたいみんな書くんですか?

書きますね。
話しを聞くことと、記事を書くことは、
どんな役割の人でも、
みんなやってもらいたい業務なので。

人の話を聞くっていうのは、
何事をやるにも基本だと思うんですよ。
デザインをするにしても、
コミュニケーションをするにしても、
ワークショップをするにしても、
アウトプットよりもインプットのほうが大切ですから。

求人の記事を書くっていうと、
アウトプットの作業に見られがちなんですけど、
実際には、インプットの割合のほうが
圧倒的に大きいんです。

それはほんとうに、そうだと思います。
新しいスタッフの人が入ってきた時に、
取材のやり方を教えることはあるんですか?

ひとことで言うと、二人三脚モデルですね。
コンピューターでも、
ペアプログラミングってあるじゃないですか。


二人一組で、
片方がプログラミングしているところを、
もう片方が見る、っていう。

それと同じような感じで、
最初は、取材に同行してもらって、
ちょっとずつ、やる業務の比重を移していきます。

初めは先輩に付き添って、
次は、自分で聞いてもらって、
その次には、自分で文章も書いてもらう。
っていうふうに、割合を増やしていくんですね。

そう。
それで、最後まで残るのは、
「何が一番大切なのか」を
一緒に考えて決める、っていう部分です。

それを決めるところも、
もうそろそろいいかな、
ってなると、もう全部まかせちゃう。

そうやって、
経験を重ねながら自分で考えてもらう、
っていうやり方なので、
やっぱりマニュアルでは伝えにくいところですね。


その、やり方を学んでいくときに、
人によってセンスの違いっていうのもありますか?

センスは、もちろん、多少ありますけど、
経験を重ねればどうにかなるんじゃないですかね。
すごくセンスがある人は勝手にどんどん上手くなるし、
まったくない人は、どうやっても無理かもしれない。
でも、その中間の大部分の人は、
時間をかければ必ず、ある程度の域には達する、
と思います。

「文章を書く」ことの他に、
「話しの中でどこがキモの部分か」を判断する部分も、
時間をかけることで成長しますか?

それって、相手のことを、
どこまで自分のこととして想像出来るかなんですよね。
で、その、相手のことを想像出来ない場合っていうのは、
「頭がいい、悪い」とかっていうこととはまた別で、
単に考えていないだけのことが多いんです。

うんうんうん。

だから、考えるクセをつければ、なんとかなるというか。
僕も、ほんとうに、考えないタイプだったんです。
でもやっぱり、考えさせられる状況を作られたら、
人間て考えるんですよね。
で、考えぬいた後はすごく成長するし、
そのトライアンドエラーを繰り返せば繰り返すほど、よくなっていく。

二人三脚で考える時にも、取材の後に片方が、
「今日の話しで一番伝えたい部分って何?」って聞いて、
とにかく、ぎりぎりまで答えは言わずに考えてもらう、
っていうことをしてます。
で、考えて出た結果について、またフィードバックをしていく。

それを繰り返せば、
人によってかかる時間の違いはありますけど、
まあ、なんとかなりますよね。
大事なのは、自分で考えられる環境がもてるかどうか、
なんだと思います。

そうすると、話しの「核」のつかみ方も身についてきますし、
文章を自分で書くようになると、だんだん、
幹と枝葉の部分の区別もついてくるんですよね。

幹と枝葉を区別するっていうのは、
聞いた話しを文章にまとめる時、
すごく大きなポイントですね。


イメージとしては、
話しの中で出てくる言葉は、
木を見る時の葉っぱ、みたいなもので、
その根っこの部分っていうのは共通してるんですよね。
だから、たいていどんな取材をしていても、
そのどの言葉も包括出来るような根があるんですよ。

出てきた葉っぱは全部、
どこかしらで根っこにつながりがあるってことですね。

たまに、かなり遠い葉っぱもあるんですけど、
それも、まあどこかで関係しているというか。
その共通点を、根っこの部分じゃなく、
上のほうにある幹の部分しか発見出来ないと、
他にもし重要な葉っぱがあっても、
見落としちゃうんですよね。

その、根っこの言葉を探すことが出来れば、
取材としては、だいたいOKなんです。

取材をしていて、なかなか
その会社の根っこが見えてこない時ってのはありますか?

たとえば、もしも、
何も考えずにただ食事を作っているレストランとか、
言われたことをそのままやるだけのデザイン事務所、
とかがあったとしたら、
取材をしても根っこはわからないでしょうね。
根っこがない会社っていうのも実際あるんですけど、
でも、そういう会社からは、
ウチにはほとんど依頼がないと思います。

そうですね。
そういう会社が、わざわざ仕事百貨を選んで
連絡をしてくるっていう可能性は、かなり低そうですね。


でも、万が一、
そういう会社から応募があったとして。
それはやっぱり、言います。
「難しいです」と。


極端な話し、雇用条件しか伝えられることがない、
っていう会社があったら、
それは仕事百貨ではお役に立てませんよ、と。
打ち出の小槌じゃないので。

もともと無いものは、どうやったって、
引き出しようがないですよね。

一緒に深く潜っていく

話しの引き出し方っていうところでは、
なにかコツはあるんでしょうか。

あんまり、
「こういう質問をすればいい」っていう、
小手先のテクニックはとくにないと思うんですよ。
それよりは、
いかに腹を割ってもらうかっていうことでしょうね。

うんうん。

取材ってやっぱり、相手も緊張するものなので、
それを取り払って、リラックスして、
いつもどおりの会話をしてもらう。

それ、どうするんでしょう?
僕もすごく知りたいところなんですよ。


たとえばなんですけど、
清水さん、今、メモ取ってないじゃないですか。

あ!取ってないです。

メモは取らないほうがいいですよね。

(ホッ・・)
うん。
メモを書くことに、
何割か意識が向いちゃいますから。

雑誌とか新聞とか、工程が多くて、
すぐに文章にしなければいけないメディアの方って、
メモを取る人が多いんですけど、
ぼくらはやらないほうがいいと思うんです。
少なくともインターネットが舞台ならやらないほうがいい。

その場で、内容をまとめながら、
終わった後すぐに記事にすることが、
習慣になってるんでしょうね。


深い話しを聞き出すっていうことでいうと、
しっかりと話し手のほうを向いて、
話しを聞いて、会話として成立している、
っていう状況は安心すると思うんですよ。
「ちゃんと聞いてくれているな」って。

大丈夫かなこの人?って不安を感じると、
余計なストレスが生まれるんですよね。

伝わっていないかもしれないと思うと、
一つずつ確認をしながら話さないと
いけない感じになるし。

そう。
そんなことばっかりやってたら、
深いところまで行けませんよね。

ダイビングでいうと、
バディ(同伴者)に対して、なんか不安だ、
って感じると、やっぱり、いちいち気を使って、
海の深いところまで潜っていけないと思うんです。

本当の素の部分を取材するんだったら、
深いところまで行かないとその画は録れないのに、
なんとなく水面近くにいる画しか録れないわけですよ。
でも安心してたら、どんどん深く潜っていけますよね。

だから僕も、メモは取らずに、
録音をしておいて、話しを聞く時は話し手に集中をする。
取材をしていると、どんどん深く潜って
いっちゃう人もいるんですが・・

うん。
そういう人は・・?

もう、どんどん深く潜ってもらいたい。

ぶはははは!

で、そういう人もまた、
「あ、これしゃべりすぎなんじゃないか」って
不安に思うことがあるので、
そういう時は、
「いや、何の心配もいらない」と。
「順調だ」と。


そう言ってあげることで、安心をしたら、
「じゃ、もっと潜ろうか」と、
また、どんどんと潜り出しますよね。

たとえばそういうことなんですけど、
これも、さっきのセンスの話しと同じで、
相手の気持ちを想像すれば、
自然と気がつくことじゃないかと思うんですよ。

そこを想像しないでやると、
「本に、話しを聞く時はメモをとれって書いてあったから」
っていうマニュアル的なやり方になっちゃいそうですね。

そう、それだと、
自分の頭で考えてないからですね。
さらに欲をいうと、相手のことを想像しながらも、
まだ見ぬ読者のことも想像出来たら最高ですね。

話し手の視点から見つつ、
同時に、客観的な視点からも見るってことですね。

それも、そんなに難しいことではなくて、
「自分が求職者だとして、今この場で聞きたいことは何だろう」
って考えればいいことなので、
センスがある人は、言われなくても出来ますよね。
だから、マニュアルはないです。
マニュアルを作っちゃう時点で、
思考停止しちゃいますから。


そうですね。
マニュアルっぽいものに従ってると、
聞き手の予想を超えた話しっていうのは、
なかなか出てこないと思います。

ある程度、会社の下調べは必要ですけど、
「じゃあこういう内容でいっちゃえ」っていうのを、
取材前から仮説で作っていく、っていうのは、
よくないですよね。

自由に、話し手がのびのびと話せる状況さえ作れば、
そんなに本筋からは外れないし。
逆に言うと、仮説を作って行っちゃうと、
その他のインタビューと同じになっちゃうんですよ。

ああ!
それはよくわかります。

それは別に、他でも読める、と。
話しが得意な人ほど、話し慣れてるんですよね。

うん。
話し慣れていると、
あらかじめストックされている言葉を、
同じように出して終わってしまったり。

それは、つまんないですよね。
僕、それは自分が話す時にも気をつけていて、
常にその場で考えるようにしようと思ってるんです。

それは、スゴい。
そういう意識を持っている話し手の人って、
あまりいない気がします。


落語みたいに、何回も同じことしゃべってても
面白い世界っていうのもあるとは思います。
トークイベントだったら、まだいいでしょう。
でも、これから編集をする内容なのに、
最後の結論まで見えてたら、
ある程度までしか面白いことにはならないと思います。
もっと面白くなるんだったら、ちゃんとその場で考えて、
そこで出てきた言葉っていうのを大事にしたいですよね。

だから、聞き手として、相手に話しをしてもらうときに、
構成とか仮説ってほしくなるんですけど、
そういうのよりも、その場その場で出てきた言葉を
引き出すっていうことのほうが重要だと思います。

そうですね。
僕が、インタビューをしていて、
いい内容だったって思うのは、
話し手自身にも、自分てこんなことを考えていたのか、
っていう気づきがあった時です。


たしかに。
僕、さっき、
話しているうちに自分でも新しい気づきが
あるかもしれないと思って、
パソコンを持ってきたじゃないですか。
会話しているといろんなことが出てくるので、
話す側としても、同じことを話してちゃつまんないし。

思考停止して、いつもの話しをするというよりは、
僕も、その場であらためてゼロから考えて、
その結果、前回と同じ結論になれば、
もちろん、同じことを話せばいいんですけれど。

そういう言葉のほうが面白いですね。
特に、文章にするんだったら、
ある程度話しがまとまってなくても編集出来ますからね。
ニュアンスがちゃんと伝わればいいんです。

そう、編集の余地があるっていうのは、いいですよね。
生放送みたいな状況で、話したこと一発勝負だと、
ちゃんと整理して話さないと、って気持ちになりますけど、
編集っていうステップがあれば、後から言い直しもきくので。

成約がないんだったら、
自由に考えたほうが、お互い面白くなりますよね。
過去に言ったことが既に文章になってるんだったら、
それと同じことをもう一度言ったってしかたないですし。

100年後にも読まれる記事

日本仕事百貨の求人は、
仕事の内容が詳しく伝わるぶん、
採用に至る割合も高いんでしょうか。

6~7割ぐらいは決まってますね。

そんなに!?
数打ちゃ当たる、じゃなくて、
マッチングの精度が高いっていうのは、
ムダがなくていいですね。


あと、営業を一切していないっていうのも、
省エネな部分だと思います。
広告をうったりとか、営業マンを雇ったりすると、
乗っかっていく費用ってあるじゃないですか。

営業をしていない分、
コンテンツを作るっていうところに
マンパワーを集中出来るんですね。

そう、
質のいいコンテンツを読んでもらえれば、
確度が高いお客さんからしか来ないですから、
結果として、営業もしなくていいですし。

一番大事なところに集中することを
考えればいいっていうのは、
シンプルでいいなあ。

そうなんですよ。ねえ。
営業がムダなこととは言わないですけど、
あまり効率の悪いことはやりたくないですよね。
欲しくないタイミングで
必要ないものを売り込まれるのって、
自分にとっても、相手にとっても、
面倒じゃないですか。


それは思いますね。

インターネットがあると、
そういう効率性はすごく加速すると思うんですよ。
仕事百貨のスタイルで、もしネットがなかったら、
今の規模になるまでに、もっと時間がかかったと思います。

ネットの場合、こっちから売り込まなくても、
情報を発信しておけば、それを必要としている人が
向こうから見つけてくれるっていう良さがありますね。

あとは、ネットの良さとして、
僕らが書いたコンテンツっていうのは、
求人募集が終了してもそのまま残しているんですけど、
きっと、100年後とかでも
読まれるんじゃないかと思うんですよね。

求人広告だと、募集期間が終了した時は、
普通の読み物になるわけですけど、
そうなった時に読んでも面白いもの、
っていうことを想定して、書いてるんですね。


そうですね。
そこは、事業的には、
フリーミアムなモデルかもしれないです。

収益になるわけではないけれど、
ご自由にお読みください、と。

僕らとしては、終了したコンテンツでも、
そこを入り口に読んでくれることで、
他の、募集中のコンテンツも読んでくれるかもしれない
っていう目論見も、
まあ、あるにはありますけど。

基本的には、一生懸命書いたものなので、
たくさんの人に読んでほしい、っていう思いで。
求人情報に出てる仕事って、
世の中にある仕事のうち、1%にも満たないんですよ。

へぇえー!
たしかに、まだまだ、
知らない仕事っていくらでもありますね。


募集終了したからって終わらせるんじゃなくて、
あ、こういう仕事もあるのか、
って知ってもらう機会になると思うんですね。

そうすると、まあ、
その記事がストックされていくうちに、
世の中の役に立つこともあるんじゃないかな、
っていうことでやってます。
(2014年9月 虎ノ門「リトルトーキョー」にて)

清水宣晶からの紹介】
「日本仕事百貨」は、
求人をしている会社について丹念に取材をして、
その職場の雰囲気を、ありのままに伝える記事を書いている。

その内容が、読み物としてとてもクオリティーが高く、
いったいどのようなプロセスで、この記事は書かれているんだろう
という興味から、今回、ケンタさんにお話しを聞かせてもらった。

リトルトーキョーには、何度か立ち寄っていて、
その「しごとバー」で初めてケンタさんに会った時、
彼は完全に場の中に溶け込んで楽しんでいて、
他の参加者と区別がつかなかった。

なんとなく存在感を発しながら、
さりげなく場をリードしている人がいるなあと思ったら、
それがケンタさんだった。

決まりきった予定調和を好まないケンタさんは、
こういう、様々な人が寄り集まって、
何が起こるかわからない場の中にあって、
とても活き活きとしているように見えた。

世の中に仕事の種類は無数にあるけれども、
そのどれにもあてはまらない、
自分が心から楽しめる新しい仕事と仕事場を、
一から作り上げてきたケンタさんのことを
僕はうらやましく思っている。

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