大野佳祐/豊田庄吾
【大野佳祐】 転機は19歳のバングラデシュ。その後の1年間アジア旅を原点に、教育・共育の“場づくり”を志す。2010年、バングラデシュに140人が学ぶ小学校を建設・運営。2014年7月に仕事を辞めて独立。直後に島根県隠岐郡海士町に移住。国境・世代を超えたいろんな学びを仕掛けられるといいなー。 https://twitter.com/ksk_ono https://www.facebook.com/keisuke.ono.73 【豊田庄吾】 人材育成会社で研修講師/出前授業講師を経て2009年11月に島根県隠岐諸島の島前三島のひとつである人口2400人の島、海士町に移住。高校連携型公立塾、隠岐國学習センターを立ち上げセンター長を務める。併せて「地域起業家/地域活性」に特化した高校のプログラムも開発中。現代版の松下村塾を目指している。 https://www.facebook.com/shogo.toyota |
(2015年1月 海士町「旧松原邸」にて)
ないものはない島
清水 | フェリーに乗ってた時間、結構長かったなあ。 (境港→海士町の乗船時間:4時間10分) ケイスケはどこかな・・? |
佳祐 | おいっすおいっす。 ありがとうございます。 |
清水 | どうもどうも。 平日なのに、迎えに来てくれてありがとう。 |
佳祐 | あっきー、メシってもう食べた? |
清水 | いや、まだなんだよ。 食べるところってある? |
佳祐 | いい店あるよ。 寿司とか、パスタとか。 |
清水 | どっちも、いいねえ。 |
佳祐 | 「ラディーチェ」がいいんじゃない? 連れていきますよ、そこまで。 これが俺の、レーシングカー。 |
清水 | あ、車持ってるの? 八王子ナンバーだね。 |
佳祐 | 東京からここまで乗ってきた。 |
清水 | 今の時期は、海士には、あまり人も来ないよね? |
佳祐 | 来ない。 冬はめっちゃ天気も悪いし、めちゃくちゃ寒いのね。 |
清水 | フェリーの欠航が心配でさ。 どんな程度で欠航するんだろうと思って。 |
佳祐 | 波が4m超えるとだいたい欠航する。 |
清水 | 明日の天気が崩れるっていう予報なんだけども。 |
佳祐 | 大丈夫。 明日もし欠航だったら、今頃みんな大騒ぎしてるから。 だいたい2日前ぐらいから「明後日は欠航するぞ」と。 |
清水 | あ、補給が絶たれるから大ゴトなのか。 |
佳祐 | そうそう、「急いで牛乳買っとけ!」みたいな。 あの「ラディーチェ」っていうのが島唯一のレストラン。 |
清水 | 「CLOSED」って書いてあるけれども。 |
佳祐 | ウソ!? あ、マジだ。 |
清水 | もう1時半だからなあ。 |
佳祐 | じゃあ、「八千代」かな。 こんにちはー。 お昼ってまだ大丈夫ですか? ごめんなさい、お昼はもう終わっちゃって・・ |
清水 | あ、そうですか。 また来ます。 これは、、もう開いてる店なさそうな感じだね。 |
佳祐 | おみやげ屋にいけば、売店はあるから、そこでお弁当も売ってる。 |
清水 | じゃ、昼ごはんはそこで買って食べよう。 |
佳祐 | 俺ちょっと、この後打ち合わせがあって。 それ終わったらまた迎えに来ますよ。 |
清水 | じゃあ、それまでの間、 島の中を見てまわってるよ。 (再度、合流) |
佳祐 | 昼間は、どこ行ってきた? |
清水 | 自転車借りて隠岐神社まで行って、教えてもらった図書館に行った。 すごいよかったよ。 |
佳祐 | すごいでしょ? |
清水 | 選書もいいし、本もキレイだった。 あんなに居心地いい図書館は、なかなかないと思うよ。 |
佳祐 | かよってると、 「入れてほしい本ありませんか?」とか聞かれるわけ。 twitterとかで評価が高い本をメモしてるから、「こういう本が面白そうと思ってるんですよね」って言うと、「わかりました、じゃあ入ったらご連絡します」って感じで。 図書館が自分の読みたい本を入れてくれる、新しいサービスみたいになってるんだよね。 |
清水 | いいなあ。 |
佳祐 | だから休日は結構、図書館に入り浸りになってる。 wi-fiも使えるし。 |
清水 | コタツが置いてあって、お茶も飲めるし、窓際に座ってると、目の前の川をカルガモの親子が通っていったりさ。 |
佳祐 | そうそう。 トラクターがブーンって通ったり、結構シブいんだよね。 |
清水 | これは、車だと、島の中どこでもあっという間に移動出来るね。 |
佳祐 | そう、車があれば超便利。 だから高校生とかはしんどいらしい。 |
清水 | スクーターがあれば、だいぶ便利だろうけど。 |
佳祐 | 高校生はスクーター禁止。 |
清水 | 禁止?ってなにそれ? |
佳祐 | 危ないからじゃない? 禁止されても、都会だったら乗っててもバレなかったりするんだけど、この島だと一発でバレるわけよ。 |
清水 | あ、そりゃそうだわな。 あとビックリしたのがさ、町ですれ違う学生が、みんな挨拶してくれるんだよね。 |
佳祐 | グッとくるでしょ。 もはや誰でも挨拶するもんね。 おばちゃんとかとすれ違っても、「こんにちはー」って言うと、「あんた誰だったかいね?」って言われたりして。 |
清水 | ぶはははは! 「いや、私もわかりません」て感じだよね。 |
佳祐 | 「とりあえずご挨拶しました」と。 |
清水 | あと、フレンドリーだと思ったのは、港でフェリーを降りたところにいきなりコタツが置いてあってさ。 そこに女子高生が集まっておしゃべりしてるんだよね。 |
佳祐 | あれが都会でいうところの、マックだから。 |
清水 | そういうことになるか。 |
佳祐 | で、ちょっと窮屈だろうって思うのは、常に人の目にさらされてるからさ、島で高校生っていったら島前高校しかないわけだよね。 チクり先がわかってるから、ほんと悪いことは出来ない。 |
清水 | そうか、すぐに身元が判明しちゃうんだな。 |
佳祐 | 結構、地域の人たちも顔を覚えてたりするから。 車で覚えられてたりもするしね。 この青い車とかすごい目立つからさ、一発でバレるっていう。 |
清水 | たしかにオレも、昼間ちょっと歩いてただけで、「あの赤い軽自動車さっきも見たな」って何回もあったよ。 |
佳祐 | そうそう、そんな感じ。 「大野君、今日郵便局のATMでお金おろしてたでしょ?」とかって何故か知られてたり。 |
清水 | ぶははははは! スゴい! |
佳祐 | 今の家に住み始めた時も大変だったよ。 なんかあの空き家に電気がつきはじめたぞ、と。 家の前に青い車が停まってるけど、いったい何者なんだ、と。 |
清水 | 異邦人がやってきたみたいな感じだよね。 |
佳祐 | で、近所の家に「東京から引っ越してきました」って挨拶に行くじゃない? すると、最初の家から勝手に噂が広まって、三軒目に挨拶にいくと「あなた東京から来た子でしょ」って。 |
清水 | 話しが早い。 |
佳祐 | もう、知れ渡るのに、一日あったら充分。 ここが、今住んでる家です。 |
清水 | このでっかい家に一人で住んでるの!? |
佳祐 | そう、マハラジャみたいな広さ。 |
清水 | 一人でこの大きさは笑えるなあ。 |
佳祐 | もう、信じられないぐらい、超でかいわけ。 ちょっと、家の中案内するよ。 ここが本玄関。 |
清水 | え!? さっき入ったところ、裏口だったの? |
佳祐 | もう、この玄関だけで、東京で住んでた家ぐらいの大きさがある。 |
清水 | そうだよね。 |
佳祐 | ここが俺の部屋で、14畳。 広すぎて居場所がない。 |
清水 | ここで一人は暖房効率悪いわ。 (家の中を案内してもらう) |
佳祐 | ・・ていう感じっす。 |
清水 | いやあ、、ものすごいお屋敷だ。 |
佳祐 | 夜は鍋作って食べる、でもいいすか? |
清水 | もちろんもちろん。 なんか手間かけてしまうけども。 |
佳祐 | いや、全然。 近所の人に野菜をもらいまくってて、使わないと食いきれないんだよね。 |
清水 | 普段、自炊はしてるの? |
佳祐 | 結局あんまりしてないね。 みんな俺が料理出来ないって知ってるから、「ほっとくと大野くんが飢えちゃう」って近所に人たちにインプットされてるわけ。 たまに電話かかってきて、「ちゃんと食べてんの?」って聞かれて。 いちおう残り物とか食べてます、とかいうと「ひもじいからウチ来なさい」みたいな。 |
清水 | いいねえ。 |
佳祐 | で、俺もほいほい行くじゃない? そうすると向こうも結構喜んでくれるんだよね。 で、行くと、残りものをもらってきたりして。 それの繰り返しって感じ。 |
来れない理由はない島
佳祐 | もうそろそろ鍋、大丈夫じゃないかな。 さあ、いきますか。 |
清水 | じゃ、おつかれさまです。 |
佳祐 | お越しいただきありがとうございます。 |
清水 | 鍋、旨いわあ! |
佳祐 | これだけ素材がちゃんとしてたら、水炊きでポン酢とかのほうが旨いかもしれない。 |
清水 | そうだね。 |
佳祐 | こっち来てから、超健康的な生活なんだよ。 |
清水 | あ、そう! |
佳祐 | 外食しないし。 東京にいた時は毎日外食で、誰かしらと飲んでたから。 |
清水 | で、早寝早起きなんだ? |
佳祐 | そうね。 仕事がなければ12時ぐらいにはもうやることもないし。 だいたいお店も長くて10時には閉店だから、家に帰ってくるのも早いのね。 |
清水 | 職場も近いし、一緒にいる人もみんな近所なわけだからなあ。 |
佳祐 | そう。 大学生の時みたい。 |
清水 | やっぱり海士は、佳祐に合ってる感じがするね。 |
佳祐 | 距離感がちょうどいいんだよね。 近すぎるって人もいるんだけど、俺はあんまり気にならないっていうか。 家あがってけって言われればあがるし、ご飯もらえたりするわけじゃない? |
清水 | うんうん。 |
佳祐 | やっぱり嬉しいよね。 ただ若いってだけでさ、飲み会に参加するとめっちゃ喜ばれるんだよね。 「若いもんが来た」っつって、ちょっとした騒ぎになって。 って言っても俺35歳だしさ、そんなに若くないぜ、と思うんだけど、もう俺の次に若い人が70歳とかだから。 |
清水 | ぶはははは! そう考えると、たしかに若いな。 |
佳祐 | 結構、最初ドキドキして移住して来たんだけど、来ちゃえば、あんま変わらんなと。 文化、習慣は若干違うにせよ、べつに全裸の民族の中で暮らしてるわけじゃないからね。 なんか、恐ろしいほどすんなり入れてて、自分でも、気持ち悪いなと思って。 |
清水 | だってまだ1ヶ月半でしょ? この、昔から住んでるかのような馴染み感。 |
佳祐 | やっぱり、まわりに甘えられる人がいっぱいいるからっていうのはある。 |
清水 | そうだよね。 このぐらいの歳になって、自分が最年少って新しいよなあ。 |
佳祐 | つきあう相手が、みんな、自分の親父、おふくろみたいな年齢の人だからね。 また、そういう環境を自分自身が苦にしないから。 |
清水 | 佳祐は、キャラ的に、相手が年上のほうがやりやすいんだろうな。 |
佳祐 | やりやすい、やりやすい。 みんないろんなこと知ってるから、話し聞いてて面白いしね。 |
清水 | もともとさ、仕事を辞めた時は、その後に何するって決めてたの? |
佳祐 | あんまり決めてなかった。 大学生よりも下の世代に向けて、教育コンテンツを届けられればいいなと漠然と思っていて。 |
清水 | そういえば、フリーになって最初やってたのって、子供向けのワークショップだったよね。 |
佳祐 | そう、一番小さい子供はどういう反応をするんだろうってのを見ようと思ってトライしてたんだよね。 でもやっていく中でイベントでやることに無力さを感じて。 結局ワンデーイベントだから、どうしても教育としては限界があるなと思ってさ。 |
清水 | 長期的に関われないってこと? |
佳祐 | そうそう。 どうにかして小学校とかに入れないかなと思って、話し持っていったりもしたんだけど、やっぱり年に4~5回ぐらいが限度で。しかも基本的にはボランティア、みたいな。 |
清水 | なるほどな。 |
佳祐 | っていう感じだったんだよね。 東京は特に、公教育に入るのは難しくて。 で、公教育にどうにか入れないかって考えてた時に、たまたまここに来る機会があって。 |
清水 | すごい縁だな! 考えてたことにぴったしハマってるじゃん。 |
佳祐 | でも最初、海士町に移住するなんてつもりは全然なくて。 ちょうど有給消化期間中だったし、庄吾さんがいたから、アドバイスをもらえたらなと思って、半分旅行で、海士町に来たわけ。 だから、今回のあっきーみたいな感じで、話しを聞かせてください、って来たんだよね。 |
清水 | あ、そんな感じだったのか。 |
佳祐 | で、来て、庄吾さんと港のレストランでメシ食って、考えてること話して。 その前から、岩本悠くんのこととか、役場の吉元課長とか、すごい人だって話しには聞いてたし、ちょっと会ってみたいとは思ってたんだよね。 |
清水 | うんうん。 |
佳祐 | でも、平日に来たし、忙しいだろうから、ムリかなーとも思ってたんだけど。 庄吾さんが学習センターに連れてってくれて、そしたら、偶然そこに悠くんも吉元さんもいて。 |
清水 | あ、ほんと! |
佳祐 | で、吉元さんが、船にフジツボがついちゃって大変だから動かさないとダメだってことで、「船出すけど行くか?」って言ってくれて。 乗せてもらったんだよね。 で、庄吾さんも一緒に乗って、そしたら、悠くんも「俺も行く」と。 あんまりそういうことするタイプの人じゃないんだけど。 |
清水 | そうなんだね。 なんか感じるものがあったんだろうね。 |
佳祐 | で、船から降りて、ベトベトだから風呂入って。 そこにも一緒に彼が来て。 その時、これからどういうことを考えてるかとか、お互いの話とかして。 歳も一緒だったし、結構、意気投合してね。 |
清水 | それがいつの話し? |
佳祐 | 7月の20日くらい。 で、「来ませんか?」みたいな話になって。 俺は全然そのつもりなかったから、「いや、行きません」と。 自分のやりたいことがあったし、離島に行くなんて考えてなかったから、「僕は東京のほうで」って言ったら、 「今の話しを聞いてたら、逆に、来れない理由がないと思うんですよね」と。 |
清水 | ぶははははは! 「来れない理由がない」。 |
佳祐 | まあ、たしかにないんだよね。 帰りも、ちょうど悠くんと庄吾さんが出張に出る時で、フェリーも一緒で、そこでもデッキで話しをして。 そうしたら、お互い考えてることが遠い未来で交差する、みたいな感覚があって。 これは一緒にやっても面白いかもなって思ったんだよね。 |
清水 | おおお! |
佳祐 | まあでも、そのあと東京に戻って一人になって冷静に考えてみて。 「ないよなあ」と。 |
清水 | うんうん。 |
佳祐 | やっぱり、自分で事業をやろうと思って独立したわけだから。 易きに流れるわけにはいかんだろう、と思ってたんだけど。 でもやっぱり引っかかるんだよね。 帰ってからもずっと、海士町のこと考えてたりとかして。 そんなことしてるうちに、また悠くんから電話かかってきて、「どう?決めた?」みたいな。 |
清水 | (笑)熱い! |
佳祐 | 「だから、前も言ったけど、決めてないですよ」と。 一応、断ったんだけど。 そしたら「次いつ島に来ますか?」と。 彼はあんまりそういうの遠慮しない感じの人で、「なんか、来れない理由ってありました?」ってくるわけだよね。 |
清水 | すごいネゴシエーション能力だなあ。 凄腕のセールスマンみたいだな。 |
佳祐 | とにかく、もう一回島に来て、教育の未来について話しませんか、と。 じゃあ9月の頭に、ちょっと長めに行きますってことになって。 で、その時に、町長に会わせてもらったり、高校の校長先生に会わせてもらったりして、自分がこういうことを考えてるって話をしたんだよね。 そしたら、子供向けにやりたいんだったら海士町でやればいいじゃないか、って言われて。 きれいな海もあるし、豊かな自然もあるし、東京よりもこっちでやればいいじゃない、と。 |
清水 | なるほど。 やりたいと思っていたことが、そのまま全部、海士で出来ちゃうんだね。 |
佳祐 | そしたらますます、断る理由がなくて。 みんな歓迎してくれてるし、やってみたいなって気持ちになって。 最後にはほとんど決めてたよね。 帰る日の朝に悠くんに会って、「お世話になります」って話しをして。 |
清水 | それは、すごく面白いエピソードだなあ。 じゃあ結構、あっという間に話しが決まったんだね。 佳祐が仕事辞めたと思ったら、その後すぐ海士町行きが決まってたから驚いたよ。 |
佳祐 | ほんと、あっという間だった。 |
清水 | そういうもんなんだな、やっぱり。 決まる時はトントン拍子に決まるんだね。 |
まだ早い、まだ早い
(外から車のエンジンの音が聞こえる) | |
佳祐 | あ、庄吾さん来たね。 |
庄吾 | いやいや、よくいらっしゃいました。 遠い島まで。 |
清水 | ありがとう。 昔、みんなで鬼怒沼山登ったよねえ。 |
佳祐 | 奥日光のね。 そういえば、あの時のメンバーだ、これ。 なつかしい。 |
清水 | 2008年の4月だったから、庄吾が海士に行く直前だったんだよね。 その後どうなるか、まだまったく決まってなかったと思うけど。 |
庄吾 | うん。 そんなに大きな志とか野望とかがあって、それを形にするために海士に来て予定通りに今があります、っていう感じではまったくなかった。 超プランドハプンスタンスな流れだから。 |
清水 | そうなんだろうなあ。 |
庄吾 | 振り返ると、いろんな一個一個の出来事が今の自分につながってるな、とは感じるけど、それは全然計画されていたものじゃなくて。 海士に移住を決めた時に、海士に行けばこんなものが得られるかな、って考えていたものよりも、今はもっともっと大きなものを得られてる気がする。 |
清水 | まさに佳祐もそのパターンだったよね。 |
佳祐 | 完全にそう。 俺の場合はノープランドハプンスタンスだったけど。 やっぱり、大きなところで導かれてる感はあるんだよね。 |
庄吾 | 俺はたぶん、死ぬ間際とかそう思うんだろうな。 何かに導かれている、って。 |
佳祐 | なんかいろんなこととかタイミングが、気持ち悪いぐらい、上手く行き過ぎてる。 小説でこれを書いたら、編集者の人が、「都合よくスムーズにいきすぎなんで、もうちょっとトラブルとかあったほうが・・」って言われると思う。 |
庄吾 | ケイちゃん。 心配しなくてもそのうち来るから。 |
佳祐 | あ、やっぱりそうすか(笑)。 |
清水 | さっき佳祐にも言ったんだけど、島に来てビックリしたのはさ、町ですれ違う人たちが、子供も大人もみんな、こんにちはって挨拶してくれるんだよね。 |
庄吾 | こういう細い道で前から人が歩いてきて、すれ違う時に挨拶しないってさ、なんか人間として認めてない感じがするじゃない? だから自然と、挨拶をするように、地域の人に育てられてる感じがする。 |
清水 | それは、すごく感じるね。 |
庄吾 | なんなんだろうね。 ここは、やさしい気持ちになれるよ。 性善説になる。 |
佳祐 | こっちの人は、家にあんまり鍵もかけないしね。 |
庄吾 | それは最初、嫁と意見が分かれたところで。 「万が一、泥棒が入って何か盗られた時に、この島の人たちを疑いたくないから鍵を閉める」っていう嫁と、「鍵を閉めること自体が島の人を信じてない、俺はそんな関係性を作ってきたわけじゃない」っていう俺の意見がぶつかって。 ・・で、俺が折れる、っていう。 |
清水 | ぶはははは! そこは、折れるんだ? |
庄吾 | 折れる折れる。 家庭の幸せのためには折れるね。 この前、車を運転してて、道路の上で、横を通り過ぎても動かないスズメを見つけた時、車を停めて、横にどかしたりね。 自分がスズメに対して優しいとかじゃなくて、ここにいると優しい人になれる感じがする。 |
清水 | 島の人がイヤな気分にならないようにってことだね。 |
庄吾 | もう、だいたいフェリーに乗る瞬間ぐらいから、モードを入れ替える。 島の外に出る時にはさ、「荷物盗まれないように気をつけるぞ」って思っちゃうけれど。 |
清水 | (笑)外国に出かけるみたいな。 |
庄吾 | 逆に、島に行くフェリー乗る時には、バッて気持ちが開いて、こっからは悪いことしちゃダメだ、事を荒立てないようにしよう、って。 でも、そういう感じで生きてたら、非常に幸せだと思うよ。 戦争にもならないし。 |
佳祐 | 関係が、「win-lose」じゃないですよね。 |
庄吾 | そう、「win-lose」じゃないし、 俺は前、研修の仕事でトレーディングゲームなんかをよく教えてて、「win-win」が大事なんです、って言ってたけど、こっちに来て2年目ぐらいから考え方が変わった。 |
清水 | おお! どんなふうに変わったの? |
庄吾 | 「win」っていう言葉自体、どこかに敗者がいることが前提の言葉なんだよね。 だから、「happy-happy」であるべきだ、と。 「三方良し」って言葉を僕らのチームはよく使うんだけど、その感覚がこっちに来て身についた感じがする。 ここに来る前は、「僕はこういうことが出来ます、こういう実績があります」ってアピールをして仕事を取ってたんだけど、こっちではそう言うことが全部、逆効果だから。 |
清水 | 「何いばってんだ、あいつ?」って感じになっちゃうんだろうね。 |
庄吾 | そう、名刺をばんばん配ったりってこともないし、前までのやり方をそのままこっちで続けてると、違和感があるんだよね。 「まだ早い、まだ早い」ってずっと言われてるんだけど。 |
清水 | 「まだ早い」。 |
庄吾 | 鍋でいえば、野菜いれるのはまだ早い、っていうのと同じようなことで。 仕事で、「こうやれば結果出るでしょ」って言っても、「お前はまだ早い、信頼されてない」とか、「地域がそれに追いついてない」とか。 |
清水 | なるほどなあ。 |
庄吾 | それが苦しかったよね。 最初、早く結果を出そうと思って、それまで東京で積み上げたものを捨てて自分は海士に来た、と思ってたから。 「なにを待たなきゃいけないの?」って。 |
清水 | 「まだ早い」っていう言葉は面白いな。 |
庄吾 | ケイちゃんも、ちょくちょく言われるよね? |
佳祐 | そうそう。 時間の流れがやっぱり東京とちがってさ。 東京の価値って、すぐに自分自身のパフォーマンスを発揮することとか、結果を出すことにあると思うんだけど。 こっちでは、結果とかどうでもいいから、とにかくプロセスに参加せい、みたいな。 そういう印象があるんだよね。 |
清水 | ほうほう。 |
庄吾 | スピード感ていう言葉があるけど、東京だと、投資を早く回収したいっていうのがあるから、早くPDCAのサイクルをまわすってことでしょう。 こっちでいうスピード感って、車の流れがあって、その中に上手に入っていくっていう感じ。 |
清水 | なるほどなあ。 |
庄吾 | 細い道を少しずつ進んでいるところをF1カーで飛ばしたら、絶対誰かひいちゃうわけじゃん。 狭い場所だったら、軽トラックとかで進んで、子どもが飛び出しても大丈夫なスピードで進んでいく、とか。 そういう感覚だよね。 |
清水 | それは、全速でアクセル踏みこむことよりも、ずっと高度なことだな。 |
佳祐 | その点俺は、庄吾さんとかが通訳してくれてるから、だいぶ助かってる。 |
清水 | そうだね、最初から手探りじゃなくて、先人が通ってきた道を教えてもらえるんだな。 |
佳祐 | 「数ヶ月で結果でないから、きばんなくていいよ」って言ってくれてるから、急いで結果出さなくていいんだなっていうモードでいられるじゃない。 「我慢」ともちょっと違うんだけど、「胆力」みたいなものがつく感じがする。 |
庄吾 | そうそう、胆力。 |
佳祐 | 速い馬に乗っていても第四コーナーまで我慢する、差し馬的な感覚に近い。 この足をみせたいんだけど、もうちょっと待て、みたいな。 「さあ、ここで勝負」ってタイミングがいつか来ると思うんだけど。 |
清水 | この島にいると、ビジネススキルっていうよりも、人間力が鍛えられる感じがするね。 |
庄吾 | 人間力は磨かれると思う。 まず、こっちの人って、自分で食べ物を捕ることからなんでも自分で出来ないとだから。 漁師さんが海に潜ってサザエとかアワビを捕るところを見せてもらった時にホントすごくて。 そこに(サザエやアワビが)いるのがわからない自分が超カッコ悪い(笑)。 |
清水 | あ、そう! |
庄吾 | 潜ってみたらわかると思うんだけど、アワビなんか、岩と同じ色で、全然見えないから。 |
佳祐 | 「ここにいるよ」って言われてもわかんない。 「え?どこっすか?」ってなるよ。 |
清水 | 生活能力が高いんだね。 |
庄吾 | あと、都会の学校だと人数が多いから、たとえば運動会では、体が大きい子は騎馬戦やって、足が速い子は徒競走出て、とかってなるけど、こっちは騎馬戦も徒競走も、全部やらないといけない。 |
清水 | 人の数が少ないから、自然とゼネラリストになっていくんだな。 |
庄吾 | そう。で、面白いのは、ゼネラリストで一人でなんでもやるからこそ、一人で出来る限界っていうのが、はっきりわかる。 |
清水 | ああ!なるほどなあ。 分業してると、自分が担当してる範囲でしか限界がわかんないよね。 |
庄吾 | そう、いろんなものがシンプルだし、これは自分一人では出来ないから誰かに手伝ってもらわないといけない、っていうことが見えるんだね。 |
どっちも知っていて、どっちも出来る
庄吾 | 経済性と文化の話しになるんだけど、経済性のことだけを考えたら、マニュアルにして、見える化したほうが効率がいい。 たとえば、毎年やる盆踊りで、櫓を組むやり方はこうです、櫓のポールはこの棚にあります、っていうのがマニュアルとして残っていれば楽なんだけど、そういうのは一切ないんだよね。 |
清水 | そうなんだ? |
庄吾 | 「さあ今年の盆踊りー、櫓組むぞー」ってなって、「ポールはどこにあるんだ?知ってるの誰だ?」から始まるから。 |
清水 | ぶははははは! 毎年毎年、そこから。 |
庄吾 | すっげえ非効率。 でも、それって何かっていうと、経済性よりも文化を上に置いてるから。 そこでコミュニケーションが生まれるし、横の繋がりが出来る、っていうことなんだね。 |
清水 | そうか、マニュアル化しないほうがいいこともある、って考え方なんだな。 |
庄吾 | なくても上手くやるだろうって思ってることもあるし、そうじゃなかったとしても、結果的に失敗して「すんませーん」とか言ったほうが、これまた関係性が出来たり、茶化されたりして、絆が強まったりするから。 |
清水 | なるほどなあ。 |
庄吾 | その、経済性と文化、どっちも知っていて、どっちも出来る、っていうのが大事で。 それが、よく言ってる「グローカル」ってことだと思うんだよね。 |
清水 | そうか、そういうことだよね。 グローバルとローカルの、両方の視点。 |
庄吾 | どっちがいい悪いじゃなくて、バイリンガルである、と。 スピード感についても構造的にわかってて、相手によって使い分ける、とか。 あんまりローカルの視点だけに偏っていると、他の地域との競争に負けちゃったりするし。 |
清水 | 佳祐も庄吾も、ビジネスの世界で突っ走ってきた人だから、今、それと違った価値観にいるってのは面白いな。 |
庄吾 | 勉強になるね。 |
佳祐 | 勉強になりますね。 どっちが新しいとかが、わかんなくなる。 |
清水 | ああ。 先を進んでいるのは一体どっちなのかと。 |
佳祐 | ついつい東京の感覚が世界標準で最先端だと思ってしまうけど、よく考えたら、歴史的にはこっちのほうがスタンダードだよな、とか。 バックトゥーザフューチャーっていうか、戻ったような感じがするんだけど、一周回って最先端にいるような気がして。 |
庄吾 | そういう意味では螺旋だよね。 言ったり戻ったりしながらも、立体的に見れば進化しているっていう。 そういうのが体感的にわかるっちゅうのが面白い。 |
清水 | 両方の極を体験してるっていうのは、強みになるんだろうね。 |
佳祐 | そう、センスが増えるっていうのは熱いことだなと思って。 センスって、磨かれることはあったとしても、センスが増えるってあんまりないじゃない? そういう意味では、結構面白いなと思ってて。 「へえー」と思うことが、結構毎日ある。 |
庄吾 | 密度濃いよね。 |
佳祐 | 俺、今のタイミングでこの島に来て良かったなと思ってて。 この年齢だから待てるけど、20代だったらもっとせかせかしてたと思うし、待てなかったと思う。 この歳になって、はじめて、おあずけっていうのが出来るようになったっていうか。 そういう意味では、今までの価値観が大きく揺さぶりがかかって。 そういうのが面白い。 |
庄吾 | あっきーは、海士に来ていながら、美味い魚を食わずに帰るのか。 あ、でも昼に「八千代」に行ったんだっけ? |
佳祐 | いや、店終わってたから。 |
庄吾 | で、どうしたの? |
清水 | 唐揚げ弁当食べた。 |
庄吾 | ああ・・それは思い出だね。 |
佳祐 | (笑)思い出、思い出。 で、夜はこの、普通の鍋でしょ。 海士に来てこういう人は、なかなかいない。 |
庄吾 | 次、島に来た時は、あん時は、あれだけ何も食わなかったんだ、って思い返すから。 |
清水 | (笑)そっか。 まあ今回は、観光とか食べ物が目的じゃなくて、二人に会いに来た感じだから。 また次は、暖かい季節に遊びに来るよ。 |
(2015年1月 海士町「旧松原邸」にて)
【清水宣晶からの紹介】
地域再生のモデルケースとして注目が集まっている海士町にあって、町営の塾である隠岐國学習センターの豊田庄吾の名は、人材育成のスペシャリストとして全国に轟いている。
町が活性化したことで、多くの魅力的な人材が町に集まってきて、そのことでますます活性化していくという好循環が生まれている海士町という場所のことが、僕はとても気になっていた。
そこに大野佳祐が移住を決めたということで、ますます興味が湧き、彼らがどのような気持ちで移住に至ったのか、話しを聞きに行きたいと思ったのが、今回の海士町行きのきっかけだった。
2人に共通していると思うのは、どちらも、心が外向きに開いているということだ。
だから、海士町の文化に積極的に溶け込もうとしていき、それに応えて町の人たちも、移住してきた彼らに親しみをもって接している。
移住してたった1ヶ月半の佳祐は、早くも海士町の文化や暮らしに馴染みつつあったし、この土地に根を張って子育てをしてきた庄吾は、町の価値観が考え方のベースになっている。
面白いと思うのは、庄吾も佳祐も、以前にはスタンダードなビジネスのまっただ中にいて、その最前線で活躍をしてきた人たちだということだ。
その経験を持ちながら、地域に固有の価値観も身につけている彼らは、海士町という離島にいながらにして、ダイレクトに広い世界につながっているのではないかと思う。
地域再生のモデルケースとして注目が集まっている海士町にあって、町営の塾である隠岐國学習センターの豊田庄吾の名は、人材育成のスペシャリストとして全国に轟いている。
町が活性化したことで、多くの魅力的な人材が町に集まってきて、そのことでますます活性化していくという好循環が生まれている海士町という場所のことが、僕はとても気になっていた。
そこに大野佳祐が移住を決めたということで、ますます興味が湧き、彼らがどのような気持ちで移住に至ったのか、話しを聞きに行きたいと思ったのが、今回の海士町行きのきっかけだった。
2人に共通していると思うのは、どちらも、心が外向きに開いているということだ。
だから、海士町の文化に積極的に溶け込もうとしていき、それに応えて町の人たちも、移住してきた彼らに親しみをもって接している。
移住してたった1ヶ月半の佳祐は、早くも海士町の文化や暮らしに馴染みつつあったし、この土地に根を張って子育てをしてきた庄吾は、町の価値観が考え方のベースになっている。
面白いと思うのは、庄吾も佳祐も、以前にはスタンダードなビジネスのまっただ中にいて、その最前線で活躍をしてきた人たちだということだ。
その経験を持ちながら、地域に固有の価値観も身につけている彼らは、海士町という離島にいながらにして、ダイレクトに広い世界につながっているのではないかと思う。