クラリスブックス
東京都世田谷区、下北沢の一番街商店街にある古書店。 取扱いジャンルは哲学思想・文学・アート・デザイン・写真・ファッション・SF・サブカルチャー関係。古本の買取も随時受付中。 店主の高松徳雄は、古書の街、東京神田神保町の古書店にて10年以上修行し、地元の下北沢で古本屋を開業すべく、2013年に独立。 地域密着の古本屋を目指し、今後はイベントや勉強会なども開催予定。 http://clarisbooks.com/ 東京都世田谷区北沢3-26-2 2F info@clarisbooks.com 03-6407-8506 【営業時間】平日12:00-20:00、日曜祝日は19:00まで 【定休日】月曜日(月曜日が祝日の場合は営業) |
(2014年2月 下北沢「クラリスブックス」にて)
クラリスブックスが生まれるまで
高松 | じゃあ、ちょっと、 話しをする前にお菓子を買っていこうか。 |
石村 | これ美味しいよね。 |
清水 | なにこれ? 「さくさくぱんだ」? |
高松 | いや、バカにしちゃいかんですよ。 これは、なかなかいい。 しかも、小分けになってるから、 自分のペースで食べやすいし。 |
清水 | ん・・わかった。 ここで、カフェラテも買っていこうかな。 |
石鍋 | それなら、「Bear pond Cafe」っていう 美味しいお店がありますよ。 |
全員 | (珈琲を買い出し) |
清水 | じゃあ、始めましょうか。 よろしくお願いします。 |
三人 | よろしくお願いします。 |
清水 | 最初に、紹介を兼ねて、 3人それぞれの得意ジャンルっていうのはあるの? |
高松 | それはあるね。 鍋ちゃんは写真・ファッション・美術関係。 |
石鍋 | 前の職場で、 美術関係とか写真集を扱うフロアにいたので。 |
石村 | 私は、文学とか読み物系を、 主に見てます。 |
高松 | で、僕は、哲学・思想関係がメイン。 そういうのが、みんな、なんとなくありつつも、 他の分野もそれなりに詳しい、っていう感じかな。 |
清水 | 「クラリスブックス」っていう名前は、 決まるまでに、結構考えた? |
高松 | 名前は、ものすごく考えたね。 鍋ちゃんに、まず店の名前を考えよう、って言って。 でも、「クラリスブックス」っていう名前は 最初の頃に出てたね。 で、また最終的に戻った感じなのかな。 |
清水 | いろいろ考えた末に、一周した? |
高松 | そう、結局、一周した。 最初に候補にあったのは「プラトンブックス」。 |
清水 | 「プラトンブックス」! |
石鍋 | 結構いい名前ですよね。 |
高松 | あと、石鍋先生発案の 「ナイスブックス」ってのもあったね。 |
清水 | ぶはははは! プラトンからいきなり、 軽い感じになっちゃってるけど。 |
高松 | 「一晩考えて、思いつきました!」って、 自信を持ってプレゼンしてくれたんだけど、 うん、まあそれはやめとこう、と(笑)。 |
石鍋 | いいの思いついても、 ドメインを調べると既に取られちゃってたり するんですよね。 |
清水 | あ、「nicebooks.com」は もう取られちゃってました? |
石鍋 | いや、ナイスブックスはもう、 調べる以前の段階で却下で・・。 |
高松 | あとは、クレイドルブックスとか、 サラバンドブックスとか、候補が出たんだけど、 既にアメリカにそういう出版社があったんだよね。 で、やっぱりクラリスブックスがいいんじゃないか、と。 |
清水 | クラリスっていうのは、 「羊たちの沈黙」から来てるんだよね? |
高松 | そう、クラリス・スターリングから。 強くて、美して、知的な存在、ということで、 そういうお店にしたいなっていう思い入れもあったりして。 |
石村 | なんで名前がクラリスなのかとか、 マスコットキャラが羊なのかとかが わかりにくいのは、 ミステリアスでいいな、と思う。 |
高松 | うん、それで、なんでだろうって 名前のことを聞いてくるお客さんもいるし、 話しのきっかけになるから。 「カリオストロの城」からきた名前と思う人も多いんだけど、 そっちじゃないんですよ、って話しをしたり。 |
清水 | 「プラトン」とかだと、 もう、想像の余地がないからね。 ところでこの、「さくさくぱんだ」って、 むっちゃくちゃ旨いね! |
石村 | でしょ? |
清水 | 食べてみるまでは、 子ども向けのお菓子だろうと思ってたけれど。 |
石村 | 「さくさくぱんだ」を笑う者は・・ |
清水 | 「さくさくぱんだ」に泣くね。 すみませんでした。 |
古本屋という特殊な業態
清水 | クラリスブックスは、twitterとかブログで、 すごく頻繁に情報発信をやってるよね。 |
高松 | そう、3人とも文章書くのが好きだし、 そこは、お店を始めた時から期待してたところはあった。 どんなテーマでもいいんだけど、 自分たちが、どういう本をいいと思っているか、 クラリスブックスとしての意見を発信していくことを 続けていきたい、っていうのはある。 それで、本当に本の好きな人に伝わればいいな、と。 |
清水 | それは、きっと伝わるよね。 やっぱり、本を好きな人が書く文章と、 そうじゃない文章って、伝わるものが違うからさ。 |
高松 | そうだよね。 そうすると、おのずと、 同じものをいいと思ってくれる人が集まる お店になるんじゃないかなと思っていてね。 |
清水 | そういう、実際に人が集まれる、 リアルな場所があるってのはうらやましい。 |
高松 | そう、だからとにかく、 お店を開きたかったんだよね。 いろいろな人が来てくれて、話をすることができるし。 どれだけネットでコミュニケーションがとれるっていっても、 実際に人と会って話すのにはかなわないなって思うから。 この場所をつかって、イベントとか、 勉強会もやっていきたいしね。 |
清水 | 3人は、もともと、 神田の同じ古本屋で仕事をしていた同士だけれど、 そのことの良さっていうのは、やっぱりある? |
高松 | それは、ものすごくたくさんある。 たとえばね、いきなり、 「私、古本が好きです!」っていう大学生の子が、 バイトをやりたいって来ても、残念ながら、 かなり教えないと、全然動けないと思うんですよ。 |
清水 | あ、そういうものなんだ!? |
高松 | 教えてもね、古本屋ってちょっと特殊な業態で、 新刊の本屋みたいに、レジでピッピッ、 800円です、ってわけにいかない形になってるから。 古本屋さんと一言でいっても、 一軒一軒やり方が違ったりするんだよね。 |
清水 | そうか、その点、 同じお店で働いていた同士ってのは、 トレーニングも必要ないし、 やり方も共有できてるし。 |
高松 | そう! 「これを、あれして」「じゃ、やっときます」 だけで話しが伝わるんですよ。 |
清水 | ツーカーだね。 |
石村 | たとえば、カバーとか値札の付け方でも、 一緒に話すとどんどんアイデアが出てくるものね。 |
高松 | そう、値段の表示の仕方一つとっても、 古本屋によっていろいろなやり方があって。 |
清水 | よく、裏表紙をめくったところに、 鉛筆で値段が書いてある、ってあるよね。 |
高松 | そのやり方してる古本屋は多いんだけど、 本に直接書き込むっていうのはやりたくなかったし、 値段の紙をビタッて糊で貼るっていうのも、 汚くなっちゃうからやりたくなかった。 で、この、スリップっていう紙を挟むやり方で クラリスブックスではいこう、って決めたんだね。 こういうのも、3人一緒にやってきたから、 すぐに意識を合わせられるっていうのはある。 |
清水 | なるほど。 |
石鍋 | 内装の設計についても、 仕事の時には、こういう作業があるから、 こういう作りが必要だ、とかがわかるし。 |
高松 | そういうことを考えると、たとえば、 「三省堂で働いてました」っていう人は、 リブロに行ったらすぐに仕事ができるかもしれないけど、 古本屋だと全然、やることが違ってきちゃう。 |
清水 | なるほどなあ。 逆に、古本屋で蓄積したノウハウってのは、 なかなか他の業種には応用しにくいってことだね。 |
石村 | そう、つぶしがきかない(笑)。 |
清水 | じゃあ、古本屋を始める場合、 同じ店で働いていた同士が一緒に仕事するっていうのは、 かなり理想的な形なんだね。 |
高松 | そう、それはベストだと思う。 |
石鍋 | 一人だとたぶん、 いろいろ妥協しながら前に進めて いっちゃったんじゃないですかね。 |
高松 | まあいいや、って感じでね。 |
石鍋 | 手前味噌ですけど、 3人で話し合いながら進めたことで、 いいものが作れたんじゃないかって思ってますね。 |
石村 | だから、オープン前の、本の準備に関しては、 ものすごく早かったよね。 |
高松 | 値段をつけるにも、やっぱり、 ネットで調べて相場を見ればいい、 っていうものでもなくて、 ウチの本屋では、どういう本をどの値段で出す、 っていう感覚はあるわけなんだよね。 そこはお互い共有出来てるから、上手く動いてるなと思う。 |
本に値段をつけるということ
清水 | 不思議に思ってたことがあるんだけど、 買い取りとかで、お客さんのところに行くような時、 その場で値段の判断をしないといけないわけでしょう。 そういうのって、その場で、瞬時に判断するの? |
高松 | そうだね。 どうしてもわからない場合は、その場で調べたり、 電話して確認したりもするんだけど、 本ってのは、日焼けとか固有の状態もあるから、 基本的には、本そのものと向き合うしかない。 |
清水 | 本そのものと向き合う! |
石村 | 見に行って、「これは見たことないな」 っていう本は、やっぱり何か、 特殊な価値とか珍しさがある本が多い。 |
高松 | 石村さんは、もう20年やっていて、 だいたいの本は見たことがあるからね。 |
石村 | でも、それも難しくて、 自分の勘だけに頼ってやっちゃうと、実は、 1ヶ月前に再販されてるものだったりすることもあるから。 ちょっと前にも、サンリオSF文庫に、 ディキンスンの「生ける屍」っていう本があって、 3万円ぐらいの相場だったんだけど、 それが、再販されたんだよね。 |
清水 | あ、そうすると、ガクッと 価値が下がってしまうんだね。 |
石村 | そう、同じ訳のものだから。 |
高松 | だから、過去の経験だけじゃなくて、 今の出版界の状況も見ないとダメなんだね。 昔の単行本が文庫化されるってことが、 哲学とか思想の分野には、よくあるから。 |
清水 | たしかに、内容が一緒のものだったら、 新刊でも全然問題ない、って人も多いだろうね。 |
高松 | 文学に関しては、初版に価値が出るから、 ジャンルによっても違うんだけれど。 そこがね、ほんとに、値付けに関しては、 1~2ヶ月で習得出来るようなものでもないし、 難しい。 |
清水 | 奥が深いなあ。 |
石鍋 | 写真とか美術とかファッションのほうは、 あまり相場が確立されていないことも多いです。 洋書の場合は特に、文学の場合と違って、 見たことがないものもけっこう多くて。 |
清水 | それは、数が多すぎるから? |
石鍋 | そうですね。 日本で全然知られてない人も多いですし。 だから、写真集の方面は、見た目で、 この前売れた本と似てるから、 このぐらいの値段で売れるんじゃないか、とか。 |
清水 | ああ、値付けの方法論が、 文学とかとまったく違うわけですね。 |
高松 | そう、写真集みたいに、 読む本じゃなくて、見る本に関しては、 日本語である必要はないから、 世界中のものが流通するんだね。 そうすると、見たことがないものが多い。 そういうジャンルはもう、自分の目を信じるしかないね。 |
石鍋 | どっちも、楽しいですけどね。 |
高松 | それがやっぱり、面白いところでもあるかなあ。 もちろん、失敗もたくさんあるけど、 逆にすごい良かったって思うこともあるし。 |
石鍋 | なんにせよ、適正な値段で買えて、 適正な値段で売れたってことが、 後でわかった時には、すごい嬉しいですね。 |
清水 | なるほど・・ そういう喜びがあるのかあ。 |
石村 | 矛盾した言い方になるんだけど、 自分の好きな本を、安く売りたくないっていう気持ちも、 あまり高く売りたくもないっていう気持ちもある。 |
高松 | それはあるね。 常にこのお店に、きちんと、 いい本を置いておける値段で置いておきたい。 安すぎると、わーってすぐに無くなっちゃうし、 高すぎると買いたくても買えなくなっちゃうから。 そこが一番、古本屋として難しい。 |
清水 | そうか、本の値段の決め方っていうのは、 結構、悩ましいんだろうね。 |
石村 | 経済とか、法律とか、 専門のジャンルを持っている店っていうのがあって、 そういう店の本って、お客さんからすると、 「ちょっと高いよね」っていうことが多いんです。 高くないと、専門の品揃えが出来ないわけなんだよね。 |
高松 | そう、本当に置きたいものに関しては、 値段がちょっとは高くなる。 そこのバランスは難しいけどね。 |
清水 | あ、そうなんだ!? |
石村 | お客さんからわかりにくいところっていうのは、 そこだと思うんですよ、いつも。 |
高松 | 自分たちの棚っていうのを維持するためには、 ある程度、責任を持った価格にする必要はあるね。 |
清水 | なるほどなあ。 専門のジャンルだからこそ、 安売りでバッと売る、っていう売り方はしないんだね。 |
石鍋 | 本当に好きで見に来ているお客さんは、 amazonで調べて100円単位の違いを比較して買うわけじゃなくて、 古本屋めぐりの中での出会いを大切にしているから、 見つけたお店で買う、っていうことが多い。 そういう人を信じて店をやりたいって思いますね。 |
大事なのは仕入れ
高松 | ちょっとここで、休憩を入れて、 「さくさくぱんだ」を補充しましょう。 |
石村 | 極論を言ってしまうと、 本が売れることもほんと大事なんだけど、 さらに大事なのは、仕入れなんですよね。 |
清水 | 質のいい本を仕入れられるか? |
高松 | そう。 仕入れた本をいかに捌くか、 っていうノウハウはわかっているから、 とにかく、まず、いい本を仕入れたい。 |
清水 | 捌き方っていうのは、 かなりノウハウが必要そうだね。 |
高松 | この本はお店に置いておいてもしょうがないから 専門の市場に出した方がいいだろう、とか、 ネットのほうが売れるだろう、とか。 さっき言ってた、クラリスブックスで 積極的に情報を発信しているっていうのは、 店に来て本を買ってもらいたいから、 っていうこともあるんだけど、 売ってもらいたいから、っていうのも、かなりある。 |
清水 | ああ、そうなんだね。 たしかに、この本入荷しました、とかって情報を発信してると、 興味を持った人が買いに来るだけじゃなくて、 この古本屋は、こういうジャンルの本を買ってくれそうだな、 っていう雰囲気が伝わるからね。 |
石村 | 前の本屋の時もそうだったけど、私は、 買ったものの仕分けをしている時が一番楽しいかな。 これは市場で、これはお店、とか。 |
高松 | それはそうだね。 お店に置こう、ってことになった本をキレイにして、 じっくり値段をつけるっていう作業も楽しいし。 |
清水 | 今、特に買取りを求めているジャンルってある? |
高松 | やっぱり、哲学・思想関係ですね。 結構、古本屋の中でも専門店が多いジャンルで、 流行りすたりがあんまりないし、王道というか。 あんまりまだ、在庫が豊富じゃないんだけれど。 |
石鍋 | 最近は美術書がだいぶ、 買い取り依頼が増えてますよね。 |
高松 | それは、「クラリスブックス」っていう 名前のおかげもあるかもしれない。 女の人でも来やすい感じがある気がするし、 名前ってやっぱり重要だなって思って。 |
清水 | 「プラトンブックス」だったら、 哲学関係の買取り依頼がたくさん来たんじゃない? |
高松 | そしたら、プラトン全集はわんさか来てたかもしれないけど。 それ以外、来なくなる可能性あるよね(笑)。 買い取りって、基本的には受け身なんだよね。 だから、ある程度こだわりを持ちつつ、 柔軟性がないとやっていけない。 |
清水 | 柔軟性っていうのは、 どういうこと? |
高松 | たとえば、クラリスブックスではあんまり 建築の本って扱ってないんだけど、 すごくいい本がダンボール30箱入ってきちゃった、と。 そしたら、多少は建築コーナーを作る柔軟性が求められる。 |
清水 | なるほど、なるほど。 |
高松 | それを、「ウチは建築は要らないから」って、 断っちゃうのはもったいないし、 せっかくお店を信用して売りに来てくれた以上は、 あまり扱いがないジャンルでも、ちゃんと調べて、 いい本はきっちり買い取りたいって思う。 |
石鍋 | そうやってコーナーを作ってみると、 「あ、こういう本が売れるんだ」っていうことがわかってきて、 その分野の仕入れが増えることにもなるから、 間接的には、ちゃんと結果につながる。 |
高松 | そうだね。 まだ始めて2ヶ月ぐらいで、ちゃんと確立されてないけど、 扱う分野もなんとなく決まってきてるから、 そうすると、積極的に買えるようにはなるよね。 |
清水 | 建築コーナーを新しく作ると、それと引き換えに、 何かのコーナーがなくなるってことだよね? |
高松 | そう、物理的なスペースの制限がやっぱりあるから、 それではみ出した本は、一括して市場に出したりするね。 |
石村 | 結構、お店で直接売るのとは別のルートもあって、 即売会とかフリーマーケットに出したりもあるし。 |
清水 | それやって、余った本を市場に出してるとさ、 ババ抜きのババみたいに、 どこに出しても他所に回されて売れ残る本てのも あるんじゃない? |
高松 | あるある。 もう、本当にどうしても売れない本っていうのは、 残念ながら、処分されてしまうことになるんだけど、 でも、そこに行くまでにいろんな場所があります。 市場もいろんな種類のがあって、もう完全にダメだ、 ってなるまでに何箇所か試すんだよね。 |
石鍋 | その本を必要としている誰かが見つけてくれる、 と信じて。 |
石村 | レイアウト替え、 っていうのは結構マメにやりたいね。 |
清水 | それは、どうして? |
石村 | お客さんが1ヶ月後にまた来て、 前と同じ本しかない、ってなったら面白くないじゃない。 |
高松 | 大規模改造じゃないよ。 古本屋のイメージとして、なんか、ホコリかぶって、 ずっと同じ本があって、っていうのがあると思うんだけど、 やっぱりそれは面白くないだろうっていうのもあるし。 |
清水 | そうか、たしかに、 来るたびに新しい発見がある本屋っていうのは、 また行こうって気になるね。 |
高松 | 逆に、それができてないと、 うまくまわってないってことでもあるから、 頻繁に入れ替えはやりたい、ってことだよね。 |
石鍋 | あとは、新しく入ってきたものじゃなくても、 今ある本を何冊か抜き出して、見せ方を変えて 特集を組んだら売れる、っていうこともあったり。 |
清水 | なるほど。 TSUTAYAとかでも、レンタルDVDでやる見せ方だね。 |
高松 | そこは、新刊本屋のほうが積極的にやってると思う。 数もたくさんあるし、工夫した売り方っていうのも わかってるし。 |
石鍋 | ただまあ、新刊本屋だと、 新刊しか扱えないっていう。 |
清水 | 古本屋のほうが、出来ることの幅は広い気がするな。 そもそも、値段を自由につけられるっていうのは 大きいだろうし。 |
高松 | そう、あとは、たとえば、 明治時代の本と、平成の本を並べて一緒に置く、 とかっていうことも出来るわけだから。 そこは古本屋ならではの工夫の仕方があると思う。 |
本のことはお客さんから教わる
清水 | 自分のお店に置いてある本って、 どのぐらい読んだことがあるものなの? |
高松 | 石村さんなんかは、半分以上読んでるんじゃない? |
石村 | いやいや、ほとんど読んだことがないって 言ったほうが正しいと思う。 |
清水 | いろいろな本について、 読んだことはないけどなんとなく知っている、 っていうことのほうが重要なのかな。 |
高松 | そう! まさにそういうことだね。 |
石村 | こういう仕事をしていなかったら、 知らなかった本はいっぱいあるだろうと思う。 |
高松 | 本が売れていく様を見ているから、 いつもいい雰囲気のお客さんが買っていく本、 とかあるわけだよ。 |
石村 | そうだね。 お客さんから教わってるところは多いと思う。 |
清水 | あの人の目に止まった本なんだから、 いい内容のものに違いない、とかって、 現場で感じるわけだね。 |
高松 | お客さんが選んで買ってくれる様子を見るとか、 本の出入りの量を見るとか、 そういう、経験の蓄積だよね。 だから、さっきの質問の答えでいうと、 本の中身は読んでなくても、背表紙はわかる、 っていう感じ。 |
清水 | なるほど。 |
高松 | この、「世界幻想文学体系」なんかさ、 全部で60巻ぐらいあって、自分で読んだことはないんだけど、 やっぱり、置くとすぐ売れるな、とかわかるし。 特定の分野については、確実に、 僕らよりも、お客さんのほうが詳しいわけだよね。 それがどれだけいい本かっていうことについては、 お客さんのほうがよくわかってる。 それを値段に換算するのは僕らの仕事なんだけど。 |
清水 | 石村さんは、ほとんどの本は、 名前や背表紙を見たことがある、 っていう感じなんですか? |
石村 | そうだね、どこかしらで見たことはある、 っていうものがほとんどだと思う。 |
清水 | これだけたくさんの本があるのにね。 |
高松 | 文学の本はそれでも、数に限りがあるから。 鍋ちゃんがやっているもののほうが難しいね。 |
石鍋 | そうですね、海外の写真集なんかは、 見たことないものばっかりなので。 |
本を売るのが一番いい仕事
清水 | クラリスブックスのことを説明する時に、 こんなお店です、って言ってることはある? |
高松 | どういうお店ですかって言ったら、 まあ、当たり前なんだけど、 私たちが厳選した本を売るお店です、 っていうことになっちゃうのかな。 |
清水 | せっかくだから、3人それぞれのオススメ本を、 お店の中から1冊ずつセレクトしてもらってもいいかな? |
三人 | (それぞれ、本を探しはじめる) |
高松 | 『プラトン(I) 生涯と著作』(田中美知太郎/岩波書店) |
石村 | 『別れる理由』(全3巻)(小島信夫/講談社) |
石鍋 | 『カフカ』他、ロ・ロ・ロ・モノグラフィー叢書 (クラウス・ヴァーゲンバハ/理想社) |
清水 | うーむ、まったく読んだことない本ばかりだ。 他にもオススメを聞きたい方は、お店に来ていただくということで。 |
高松 | 本が売れると、やっぱり嬉しいんだよね。 単純に、本を読む人が増える、っていうだけで。 世の中には、いろんな物を売る仕事があるけど、 僕は、本を売るのが一番いい仕事だと思ってるんですよ。 |
清水 | おお! |
高松 | 逆に、最悪なのが、 麻薬を売るとか、核爆弾売るとかね。 |
石村 | 死の商人。 |
高松 | どんな分野の人でも、本は読むじゃないですか。 あらゆる人に、本を通じていろんなことを提供出来るっていう、 すごい人間的な仕事だな、いいなって、つくづく思って。 |
清水 | たしかに、すべての人に関われるよね。 どんな人にでも、関わりのある本は出ているから。 |
高松 | そういう憧れがあったから、ずっと昔から、 古本屋を作りたいっていう想いがあったんだろうね。 お店を始めたっていっても、 まだまともに回っていないけど、 これで生活が出来るようになれば、幸せ者だなと。 僕はね、一番いい仕事をしてるなって、 自信を持ってますよ。 |
清水 | それは、いいなあ。 そう言える仕事をしてるってのは、 ほんとに幸せなことだよ。 |
(2014年2月 下北沢「クラリスブックス」にて)
【清水宣晶からの紹介】
古本屋といえば、薄暗い店内にホコリをかぶった本がぎっしりと敷き詰められている、といったイメージがあるかもしれないけれど、クラリスブックスを見れば、その認識は一変するに違いない。
下北沢という立地に合った、陽の光が柔らかく射しこむ明るい店内には、選び抜かれた魅力的な本たちがキレイに並べられている。
もともと、神田の同じ古書店で働いていた3人の息はピッタリと合っていて、文化祭の準備をしているクラスメートのような楽しげな雰囲気の中で、いつもてきぱきと動き回っている。
本のことを話し始めると、いつまででも話題は尽きず、本当に嬉しそうな笑顔を見せる。こういう店員たちが作っている本屋には、同じく本好きの人たちが自然と集まってくる雰囲気があるものだ。
今回、「ヒトゴト」では初めて、「人」ではなく「店」を主役にしてお話しを聞かせてもらった。
そのことにあまり違和感が無かったのは、この、手塩にかけて大事に育てられている古本屋に、人間に対して持つのに近い愛着を感じたからだろうと思う。
古本屋といえば、薄暗い店内にホコリをかぶった本がぎっしりと敷き詰められている、といったイメージがあるかもしれないけれど、クラリスブックスを見れば、その認識は一変するに違いない。
下北沢という立地に合った、陽の光が柔らかく射しこむ明るい店内には、選び抜かれた魅力的な本たちがキレイに並べられている。
もともと、神田の同じ古書店で働いていた3人の息はピッタリと合っていて、文化祭の準備をしているクラスメートのような楽しげな雰囲気の中で、いつもてきぱきと動き回っている。
本のことを話し始めると、いつまででも話題は尽きず、本当に嬉しそうな笑顔を見せる。こういう店員たちが作っている本屋には、同じく本好きの人たちが自然と集まってくる雰囲気があるものだ。
今回、「ヒトゴト」では初めて、「人」ではなく「店」を主役にしてお話しを聞かせてもらった。
そのことにあまり違和感が無かったのは、この、手塩にかけて大事に育てられている古本屋に、人間に対して持つのに近い愛着を感じたからだろうと思う。