山本麻子
1980年、東京生まれ。 中央大学総合政策学部卒業後、イエメン共和国へ語学留学。 日本国内でアラビア語通訳・翻訳業を経て、現在は建設関係の仕事でアルジェリアに赴任中。 アラブ諸国各地の方言習得が目標です。 |
(2009年6月 大井町「マクドナルド」にて)
イエメンの文化
(清水宣晶:) イエメンに行ったことある人って、オレ、今まで麻子ちゃん以外に聞いたことないんだよ。
「地球の歩き方」なんかは、イエメンて出てるの?
(山本麻子:) その周りの国と一緒にして、「アラビア半島の国々」って本の中にはあるんですけど、ほんのちょっとだけ。
アラビア語勉強してる人って、エジプトやシリアに行く人が多いみたいです。
アラビア語を学ぶってなると、
やっぱり、カイロに行くのが王道なんだ?
エジプトとかシリアは、学校も多いから。
アラブ圏の中では、日本人の観光人も多いし。
ドバイなんてのはどうなの?
ドバイとかカタールとかの湾岸諸国は、
基本的に留学生は受け入れてないと思いますね。
外国から来るのは、ビジネスマンばっかりなんだね。
そう、ほとんど英語で済んじゃうってこともあって。
あと、物価も高いから、学生が勉強しに来るっていうのは、あまりないですね。
イエメンて、どんなとこなんだろうな。
どのぐらい、イスラム教が濃い国なの?
イエメンは、アラブの中でもかなり保守的な国で、
女性は、黒のベールで顔を隠してるし、
家族以外の男女がしゃべるのは恥ずかしいこととされています。
外国人であっても、そうなのかな?
女性同士話すのは何の問題もないから、私は、
普通に女の人と話したり、遊びに行ったり出来るけど、
日本人の男の人が、
イエメンで女の人に気軽に声かけたりっていうのは、良く思われません。
じゃあ、逆に、向こうの人から
気軽に声かけられるってこともないんだ?
あ、それはありますよ。
イエメン人男性は、イエメン人女性にはうかつに声かけられないですけど、
外国人女性をナンパしたりする人は、たまにいますね。
(笑)それはいいんだ!?
マジメな人は、そういうことはしないけど。
でも、いい加減な人もいるから。
いるの!?
まあ、そりゃ、いるか。
オレの勝手な想像だと、みんな厳格に戒律とか守ってるのかと思ってたけど。
なんか、どのぐらい厳しいのかとか、全然イメージつかないよ。
私も、イエメンしか知らなかったから、
他のアラブ圏に行って驚くこと、結構ありましたよ。
やっぱり、
国によっても違うんだ?
全然違う。
エジプトやシリアは、観光客も多いですし、ヨーロッパと近いので、
外からの刺激や影響があると思いますね。
イエメンは、地理的にも陸の孤島というか、
アラブの中でも、かなり古くからの伝統を守ってる国です。
みんな熱心にコーラン読むし、お祈りも5回やる人が多いし。
衣装も、男の人は白い服着て、刀さしたりしてるんですよ。
あの、曲がった刀だよね?
アラビアンナイトの世界だなあ。
地震がほとんどないから、築100年とかの建物が普通にあるし、
町並みも古くて面白い。
アルジェリアの生活
今は、アルジェリアでは、アルジェで働いてるの?オランという、地中海沿いの街にいます。
会社の人たちはキャンプ地みたいな場所に集まって、
そこに仮設住宅を作って、寮みたいな感じになってます。
食事もコックさんが作った食事が三食出るし、生活には全然不自由ないんですよ。
でも、外に自由に出られないっていうのが難点で。
近所とかにちょっと外出するのもダメ?
キャンプ全体が塀で囲われていて、
セキュリティーガードが入口を見張ってるんです。
じゃあ、休みの日でも遊びに行けないんだ?
エスコート付きなら大丈夫なんですけど、
自由に出歩くことはあまり出来ないですね。
すごいな。
専任のコックまでいるなんて、かなり大掛かりだね。
テニスコートやコンビニもあるし、小さな村みたいな感じ。
勤務時間てどのくらいなの?
朝の7時に出発して、8時スタート、夜は7時か8時頃キャンプに戻ります。
建設現場はバスで30分くらいのところにあるので、
キャンプと現場の間だけをひたすらバスで行き来して。
で、週休一日なんですよ。
週休二日あっても、やることないから、海外プロジェクトだとそれが普通みたいなんですけど。
どわー!
それ、ものすごく金貯まるね!
貯まりますよ。
使いたくても、使うところないですから。
使うのは、月に3000円くらいですかね。
食事もついてるし、住むところもあるんだもんね。
しかも、パチスロみたいな娯楽もない、、と。
返しきれない借金抱えた時は、そこで人生やり直せるなあ。
実際、そういう人もいるかもしれません。
あまり深くは聞けないですけど。
そうか・・
冗談で言ったつもりだったんだけど・・
アルジェリアで撮ってきた写真を、
何枚か持ってきました。
どれどれ、、
うお!
カメレオンいるんだ?
これ、どこにいるの?
そこらへんにいるんです。
散歩してる時に出会ったら、こわいなーー、これ!
あ、でも小さいんだね?
そう、手のひらに乗るぐらいの大きさなんですよ。
おとなしいんですよね、噛んだりしないし。
噛むって感じはしないんだけど、
こいつに舌でなめられたりすることを想像しただけで、背筋が凍るよ。
みんな、よくつかまえてきて、
オフィスに観賞用に置いてたりしますよ。
飼ってるの!?
いや、生きてるハエとかが主食なんで、飼うのは難しいんですけど。
なんか、あまりに見慣れない生き物だから、現実感がない。
このザラザラした手とか、ぬいぐるみっぽいし。
動きがのろくて、結構かわいいの。
日本で言うと、どの生き物ぐらいの位置づけになるかな?
カエルですかね。
ああ、なるほど。
そのぐらいの感覚か。
「向こうの人はこれを食べます」とかいう衝撃的な事実はある?
食べはしないです!さすがに。
良かった。
これを食べる国だったら、オレは、ちょっと入国できないと思ったよ。
見知らぬ土地に一人で暮らすこと
見知らぬアラブの土地に一人で行くのって、怖くなかった?実際は親切な人ばっかりでしたから。
それって、行ってみて初めてわかったことでしょう。
行く前は不安だったんじゃない?
イエメンに行く前は、何にも知らなかったからね。
やっぱり親もかなり心配していたし、
いきなり向こうに住むとは、なかなか言えなかった。
どうやって説得したの?
「まず一ヶ月ぐらい、旅行がてらイエメンに行ってくる」と。
うんうん。
「もし、暮らせそうだったら、そのまま学校見つけて住むことにする」
おお・・問題なさそうなら住む、と。
「もし、ダメだったら、エジプトに行って学校を探す」
(笑)ダメだった場合も、帰って来るんじゃなくて、
横にスライドして残留するプランだったのか。
それでオッケーだったの?
留学したいっていうのは、
もう1年か2年ぐらいずっと言い続けてたことだったから。
その熱意も伝わって、最終的には認めてくれましたね。
アラブ圏の国ってのは、治安ていう面では大丈夫?
戦争をやってる国は別として、治安がいいところは多いです。
宗教がうまく機能しているせいか、道徳を大事にするんですよ。
そういうのは、あるだろうね。
日本人が持っているイスラム教のイメージって、過激派とかテロリストとかの印象が強いんですけど、実際にはすごく穏やかな人が多いです。
そういえば、日本で見かける中東の人も、
穏やかな雰囲気の人多いよね。
日本で見る中東のニュースが、戦争とかテロとかばっかりで、普通の生活のことについてほとんど報道されないから、そのイメージが強くなるんだな。
アラブ圏全般的に、日本人が好きな人が多くて、親日的なんですよ。
マジで!?
好きになってくれる理由が、よくわからないんだけど。
アルジェリアとか特にそうなんですけど、
フランスやイギリスからの植民地の時代が長くて、大国に対してはあまりいいイメージがないんですね。
でも日本は、アラブに対しては侵略の歴史がないから、悪い感情はないんです。
アメリカの仲間みたいに思われてるわけじゃないんだ?
アラブの人達も、あんまり日本のことは詳しくないんですね。
日本と中国の区別もついてないみたいで、
歩いてると「ジャッキー・チェン!」って声かけられたり。
(笑)ジャッキー・チェン関係ない!
しかも古いし!
その程度の認識なので、
本当に日本のことを知ったらどう思うかわからないんですけど、
トヨタ、ホンダ、ソニーといった会社はやはり有名ですし、
なんとなく、小さいのに発展した国、っていう印象があるみたいです。
アルジェリアは、フランスの影響ってかなり残ってるの?
イスラム教だと、結婚前につきあうっていうのはダメなんですけど、
アルジェリアだと、そこまで厳格な人ばかりじゃなくて、
半々ぐらいですかね。
そのさ、男女関係について、
最もクローズなイスラム教の文化と、
最もオープンなフランスの文化がミックスされてるところが、
アルジェリアって、ものすごく面白いね。
そうなんですよ。
育った家庭環境によって、だいぶ価値観も違うみたいで、
同じ町の中でも、スカーフしてる人がいたりいなかったり、不思議。
結構、「なんちゃってイスラム教徒」が多い気がします。
酒とかも普通に飲んでる?
それも、フランスの影響なんですけど、
地中海沿いってこともあるし、国産のワインも色々ありますよ。
新鮮だなあ。
アラブ世界も、いろいろあるんだね。
アラビア語の面白さ
言語の難しさって、単純に比べられるものではないと思うんだけど、アラビア語って、簡単なところと難しいところってのはある?
発音は「ア゛ィン」みたいな、日本語や英語にない強い発音があるから、難しいですけど。
文字が28個しかないから、読み書きは楽です。
表音文字なの?
そうです。
だから、ひらがなみたいに、読み方はそのままわかるんですよ。
それは簡単でいいなあ。
休暇とかあったら、ぜひ、アラブ語圏は行ってみてほしい。
すごく面白いですよ。
フレンドリーな人が多いし。
そうだよね、アラビア語って、
「しゃべれる喜び」を実感出来る言葉な気がする。
日常会話ぐらい出来るようになったら、かなり面白いだろうね。
国際語だから、色んな国で使えるし。
24カ国もありますからね。
それぞれの国ごとに文化も違うし、当分は飽きないと思いますよ。
しかも、ヨーロッパ並みに歴史の積み重ねがある地域だしね。
四大文明のうちの半分持ってってるし。
イエメンに留学してた時にすごく思ったのは、
英語を勉強したい人は、アメリカなんかに留学しないほうがいい、ってことで。
面白い。
それは、どうして?
アメリカに語学留学なんかすると、クラスメートって日本人ばかりだって言うじゃないですか。
でも、イエメンだと、日本人がまったくいなくて、欧米人がたくさん留学に来てるんですよ。
だから、そこで私は結構、英語が伸びたっていうことがあって。
なるほど!
アラビア語勉強しに行ったのに、ついでに英語まで話すことになるのか。
それと同じ理由で、フランス語勉強したい人は、
パリに行くよりチュニジアに行ったほうがいいです。
物価も学費もパリの5分の1ぐらいだし、チュニジアは、アラビア語を勉強しに来てるフランス人がいっぱいいるんですよ。
新しいなあ!すごくいい事聞いたよ。
やっぱり、周りに日本人が一人でもいると、どうしても日本語使っちゃうものね。
チュニジアでフランス語を勉強するなんて、今まで考えたこともしなかった。
イエメンの日本らしさ
麻子ちゃんは、今まで、他にも色々な国に行った?
今まで、旅行に行ったのってアラブ語圏ばっかりなんですよ。
偏ってるね(笑)!
旅行先で日本人に会うことも、あまりないんじゃない?
最近は観光客もだいぶ増えてきたけど、それでもまだ珍しいみたいで、
日本人の女の子が、片言でもアラビア語で話しをすると、
みんな喜んで、「ウチ来い、ウチ来い」って言ってくれるんですよ。
そうだよなあ。
これが、ニューヨークで英語しゃべってる場合だったら、
なんにも珍しく思われないもんね。
フランスとかも、観るところいっぱいあって楽しいんですけど、
そういう先進国だと、
普通に街を歩いてるぐらいじゃ、なかなか友達って出来ないじゃないですか。
うん、都会にいると、
どこの国でもそうだよね。
エジプトとかイエメンとかだと、通りで何もしないで、
ボーっとお茶飲んでるおじさんとかが居て、
ちょっとしゃべると、すぐ、家寄ってけって言ってくれるんですよ。
日本について、向こうも興味しんしんなんですよね。
で、自分の国の良さを語ってくれたり。
そういうおじさんたちは、
何をやって生活してるんだろうね。
まあ、そこは、イスラム教独特の助け合いの精神があって、
一族の中で一人でも働いてる人がいると、そこに頼る、っていう。
(笑)たかってるねえ。
そういうのも、いい面もあり、悪い面もありで、
近所づきあいも、ほんとべったりで。
イエメンだと、周りの人みんな知り合いなんですよ。
ほんと、古き良き時代の日本みたいだね。
イエメンで、昔の日本を感じるってのもすごいけど。
私は、ずっと東京のマンション暮らしだから、
近所づきあいなんかほとんどなかったんですよ。
でも、向こう行ったら、私のことみんな知ってて、
道で顔見るたびに「アサコ!アサコ!」って声かけてきて。
そうなんだ!?
だから、うかつなことは出来ない。
語学学校の外国人の男の子とかと、町をちょっと歩いてただけで、
「結婚はいつなんだ」とか聞かれるし。
そういうところも、ムラ社会っぽいなあ。
合わない人には、きついだろうね。
でも、それで守られてるっていう感じもありますね。
エジプトみたいな観光地だと、痴漢が多いらしいんですけど、
イエメンにいると、みんな知り合いだから、
いかに外国人相手とはいえ、「あいつ尻さわった」とかいう評判が立つと、
一族の中で、ものすごく不名誉なことになるんですよ。
それはやっぱり、昔の日本を感じさせる治安の良さだよね。
「世間様の目」っていうのを意識してるから、
自然に道徳が出来上がるっていう。
ピストルとか持ってる人もいないだろうし。
いや、それはいます。
みんなカラシニコフとか持ってたり。
(笑)ちょ・・持ってるんだ!?
しかもロシア製?
部族社会だったから、防衛のために持ってるって言うんですけど。
ちょっとカッコいいから持ってる、みたいな。
せいぜい、結婚式の時のお祝いでぶっ放すぐらいで。
それで時々、流れ弾に当たって死ぬ人とかも出るんですけど。
治安いいんだか悪いんだか、わからなくなってきたよ・・。
でも、いきなり発砲するような人はいないし、
基本的には、すごく治安はいいところですよ。
(2009年6月 大井町「マクドナルド」にて)
【清水宣晶からの紹介】
今回、麻子ちゃんがアルジェリアから日本に一時帰国しているタイミングで、久しぶりに会って話しをした。初めて会った時は、まだ麻子ちゃんは大学生で、アラビア語の勉強を始めたばかりの頃だった。それがいつの間にか、アラビア語の翻訳や通訳をこなすエキスパートになって、アルジェリアで仕事をするようになっていた。
誰も日本人がいないような環境にみずから身を置いて、彼女はたった一人で、ゼロからの生活をスタートした。このタフさと覚悟があってはじめて、本当の意味で、その国の背景にある文化にまで溶け込むことが出来るのだろうと思う。
麻子ちゃんと話しをして、自分がいかに世界のことを知らないかということを痛感した。自分が「世界」と言う時、それは主に欧米のイメージで占められていて、人口の多くを抱えるイスラム教文化圏についての知識は、それと比べて極端に少ない。
これから、アラブ世界との関わりが重要性を増す中、麻子ちゃんのような人こそが、大きな役割を果たすことになるんだろうという気がする。
ちなみに、麻子ちゃんは、前に「ヒトゴト」でも話しを聞いた恭ちゃん(山本恭子)の妹なのだけれど、姉妹同士、顔は似ていても、個性はそれぞれにまったく違っていて、それもまた話しを聞いていて面白いところだった。
今回、麻子ちゃんがアルジェリアから日本に一時帰国しているタイミングで、久しぶりに会って話しをした。初めて会った時は、まだ麻子ちゃんは大学生で、アラビア語の勉強を始めたばかりの頃だった。それがいつの間にか、アラビア語の翻訳や通訳をこなすエキスパートになって、アルジェリアで仕事をするようになっていた。
誰も日本人がいないような環境にみずから身を置いて、彼女はたった一人で、ゼロからの生活をスタートした。このタフさと覚悟があってはじめて、本当の意味で、その国の背景にある文化にまで溶け込むことが出来るのだろうと思う。
麻子ちゃんと話しをして、自分がいかに世界のことを知らないかということを痛感した。自分が「世界」と言う時、それは主に欧米のイメージで占められていて、人口の多くを抱えるイスラム教文化圏についての知識は、それと比べて極端に少ない。
これから、アラブ世界との関わりが重要性を増す中、麻子ちゃんのような人こそが、大きな役割を果たすことになるんだろうという気がする。
ちなみに、麻子ちゃんは、前に「ヒトゴト」でも話しを聞いた恭ちゃん(山本恭子)の妹なのだけれど、姉妹同士、顔は似ていても、個性はそれぞれにまったく違っていて、それもまた話しを聞いていて面白いところだった。