松本祐樹


愛知県出身。
軽井沢発祥の丸山珈琲で丸12年勤務。
2021年に「MzCOFFEEラボ」を立ち上げる。
特技:大会用備品制作・ラフティング
趣味:スキューバダイビング
(2024年6月 軽井沢「MzCOFFEEラボ」にて)

一番身近な社交場

(清水宣晶:) おはようございます。

今日はお休みの日に時間をとっていただいて、
本当にありがとうございます。

(松本祐樹:) こちらこそありがとうございます。
こんなラフな格好ですけども、大丈夫ですか?

っていうか私、立っていてもいいですか?
座ってるとなんか落ち着かなくて。

もう全然大丈夫です。
普段通り、松本さんがカウンターの中に立って、
僕がここに座る感じで話しましょうか。


「MzCOFFEEラボ」は、最初からこういう、
テイクアウトでコーヒーを出すお店、
っていう風に決めてたんですか。

本当は、陶器のカップでコーヒーをお出しして、
皆さんにゆっくりしていただくのが理想だったんですけど、
お手洗いがないと、店内で陶器で提供しちゃいけないんですよ。

そうなんですか。
保健所の許可の関係とかで。


そう。
でも、テイクアウト専門店にしてよかったなと、
今は思っています。

あ、それはどういうことで?

イートインでやってたら、それこそ、
今みたいな空気感は作れていなかったな、
っていうのが正直なところで。

たしかに!そうだと思います。
もしイートインのお店だったら、
どうなってたんでしょうね。


どうなんでしょう。
滞在時間が長くなると、駐車場も限られてますし。
そもそもの最初は、
豆売り専門店で考えてました。

ここでコーヒーを試してもらって、
美味しいね、じゃあこの豆を買っていこう、っていう。

でもフタを開けてみたら、すごくありがたいことに
ドリンクのほうで人気が出てきて。
この場所で結構コミュニティも生まれてますし、
ここに来れば誰かしらに会えるっていうような感覚もあって、
今、理想的な空間になりつつあるので。

それは、本当にびっくりするんですよ。
僕、ここに来るたんびに、
ほぼ毎回、いい出会いがある感じがして。
すごい場所だなって思ってるんです。

皆さんそうおっしゃっていただくんですけど、
それは、私が一番不思議。


ぶはははは!
松本さんからしても不思議ですか。

お客様同士で話が盛り上がる空間とか、
なかなか作ろうと思っても作れないですから。

イートインの形だったとしたら、
そういう空間にはなってないですよね。

なってないですね、きっと。
あと、これ以上大きかったらまた違ってると思うので、
多分ちょうどいい大きさ。

そうそう、コーヒーが出来るのを待つ間、
誰かの隣りに座らざるを得ないじゃないですか。

そうなんです。
で、話さざるを得ない。


(笑)そうですよね!
これが、バーのカウンターとかだと、
松本さんに対して話す感じになっちゃいますけど。

ここのイスに座ってると、
松本さんともちょっと距離が遠いから、
お客さん同士で勝手にやるしかない。

そう、そうなんです。
忙しい時は特に、私がこう、
本当に作業に没頭してるんで。

すごいですね、なんか、
この「MzCOFFEEラボ」の空間は。


狙ってやったわけではないですけど、
結果として、いい形になりましたね。
カフェって一番身近な社交場でもあるので。

あー!
たしかに。

日本ではあまりないですけど、
おそらくヨーロッパとか一部の海外では、
そういった会話が生まれるところだから
カフェが盛り上がってるんだろうなとも思える。
本当に、日常の社交場。

前にお客様が言ってたことなんですけど、
「おじいちゃんおばあちゃんて病院によく行きたがるじゃん。
あの待合室みたいな感じ。」って。


ああー、わかりますよそれ!
日常のルーティーンの中に会話の場があるような。
なんかでも、その感じを作るのって難しいじゃないですか。

カフェみたいなところで人が集まるお店って、
常連の人が幅をきかせて、
はじめて来た人が居心地が悪くなりがちなんですけど、
ここだと、それを感じないんですよね。

それはすごく、私がお店やる上で
気をつかってるって言った方がいいですかね。
そうならないような雰囲気作りを心がけてます。

はじめての人には、
松本さんが話しかけたりするとかですか?

そういうこともありますが・・
私のスタイルとしては、
誰だろうと接客スタイルを変えないというか。


はい、はい。

お客様によって、こう、
温度差を出さないようには気をつけてます。
すごい偉い人が来ようが、
常連だろうが、初めてだろうが、
ここに来ていただけた時は変わらないので。

そうですね。
それはすごく大事だと思います。
やっぱり店長のやり方によって、
お店って全然変わりそうですね。

お客さんとお話しすることっていうのは、
松本さんがやりたいことの中には入っていたんですか?

入ってましたね。
むしろコーヒー提供をするよりも、
そっちをやっていたいぐらいの。


あ、そうですか!

そのことに気づいたのは、
丸山珈琲に入ってからだと思います。

接客が好きだということに気づいて、
私の場合そこにコーヒーがあった、
っていう感じですかね。

昔の松本さんのお話しを聞きたいんですが、
もともと接客のお仕事ではなかったんですよね?

一番はじめに働いたところは、
自動車の部品を作る工場でした。
愛知県の出身だから、
トヨタ関係の仕事でしたね。


学生とか10代の頃は、
飲食業とは関わりはなかったですか?

高校生のとき最初にやったアルバイトが、
「スガキヤ」っていう、ラーメンと甘味処のお店でした。
こっちでいう「ラーメン大学」みたいな、
愛知の方ではすごく有名なチェーン店で。

そこで働いていた時から、
自分のお店を持ちたいなっていうのはありました。

そんな昔から、自分のお店を持ちたい、
っていうイメージはあったんですね。


横を見たら、好きな女の子が隣にずっといる、
そういうお店が作れたらいいなって思って。

いいですねえ!
好きな人と、手の届く範囲で。

多分もう、思考がすごい単純なんです。
坊主頭も16歳からですが、
当時好きだった子が坊主頭が好きっていうんで、
それからずっと坊主頭ですし。

ぶははははは!
すごく単純ですね。


もともと、そんなに稼がなくてもいいから、
笑って過ごしたい、っていうのがあって。

実際、子育てしているとそうもいかないんで、
理想通りにはいかないんですけどね。

コーヒーと遊んでる?

就職の時は、どういういきさつで
自動車関係の会社に行くことになったんですか?


高校は工業高校だったんですけど、
就職先を決めるっていう時は、
パン職人になりたかったんです。

工業高校でパン職人。

椅子を作る職人か、パン職人になりたくて、
高校を出た後はパン屋さんの道に進もうと思ってたんですが。

大きな声では言えないんですけど、
高校3年生の時、ちょっと色々あって、
就職する組では1位か2位ぐらいの成績を取ってしまったんです。

工業高校でそうなると、
パン屋さんになりたい、とは言い出せなくて。


(笑)君は何しにこの学校に来たのか、
ってことになりますね。

「この中から好きなところを選びなさい」
って渡されたリストの一番上にあった、
アイシン精機っていう会社に就職しました。

そういう経緯だったんですか。
面白いなあ。

コーヒーとの関わりっていうことで言うと、
小さい時から、自分の生活の中にはありましたか?

ないですないです。
小さい頃はなんですか、ミルクコーヒー。
ああいう甘いやつは、
たまに作ってくれると飲んでましたけど。
コーヒーに出会ったのは24歳のときです。

24歳っていうことは、
まだ最初の会社で働いていた時ですか?


最初の就職先で3~4年働いた後かな。
じゃあ次、やりたいことは何だろうなって考え直して。

「そうだ、好きなことでお店を開くのが夢だった。」
じゃあ調理関係に行こうっていう、そういう感じです。

いったん仕事を辞められて、
また勉強しよう、って思ったんですね。

勉強は好きではなかったんですけど、
もう1回勉強してもいいかなと思えた歳がその頃だったのかな。
ちゃんと自分で稼いだお金で学校に行きたい、っていう。

で、専門学校に戻って、
調理を学びに行ったんですが、
自分には合わないっていうことに気づいてしまい。

調理は合わなかったですか。

じゃあどうしようかって考えてる時に、
学校に「バリスタコース」っていうのがあって。
響きがカッコよかったので、
バリスタが何をやる人かも知らず専攻したんです。


そこにいた先生がお綺麗な方で、
立ち居振る舞いや、出てくるカプチーノ、
全てが素晴らしすぎて。

その時に、
「ああ、この世界で生きていくんだろうな」
って、直感的に感じました。

そうですか!
そんなすごい先生がいた。

その日から毎日牛乳を10本とか買って、
教室を借りて、ラテアートの練習です。

あの先生みたいなラテを作りたい、という気持ちで、
ほぼほぼ毎日やってましたね。
それでお金が尽きてくるんですけど。

牛乳たくさん買うと、
お金かかりますもんね。

アルバイトもしてなかったので、
その1年間は、貯金だけで全部まかなってた感じです。


その専門学校は、調理だけじゃなくて、
コーヒーを学ぶコースもあったんですか。

はい、カフェビジネス全般の学校で、
カフェに関連する、パンとかスイーツとか、
いろんな科があって。

入った時は調理を勉強するつもりが、
コーヒーの道に進むことになったんですね。

そうですそうです。
多分この世界だったらトップに行けるだろうなっていう、
根拠のない自信と、24歳の浅はかな考えから。

極めたいと思えた道だったんですね。
すいません、バリスタって何かわかってなくて、
どういうことやる人をバリスタって言うんですか。

いわゆる「エスプレッソ」を淹れる人。
エスプレッソマシンを使って、抽出をする人ですね。

もともとイタリアのバールの仕事なんで、
向こうではバールマンとも呼ばれたりして、
お酒も扱うらしいんですけど。

手動でドリップコーヒーを淹れるのと違って、
エスプレッソマシンで抽出をするのだと、
あんまり技術の差が出なかったりはしないですか?


めちゃくちゃ出ます。

なんと!

たとえコーヒー豆の挽き目が一緒でも、
もう、まったく違うエスプレッソが出る。
不思議ですよね。

不思議です。

「バリスタキャンプ」っていうのを何度か丸山珈琲でやって、
各国の世界チャンピオンが来たんですけど、
その時にほんと驚愕したのは、
みんな、ずっとエスプレッソを淹れてるんですよ。

0.1グラム違いで淹れてみたり、
挽き目も一目盛りずつ変えていったり。
それをみんなずっと、ひたすら。
あそこまでやらないといけないんだなっていう。

丸山珈琲っていうのは、
一流の人が集まってたんですね。

そうですね。
私が丸山珈琲でみんなと切磋琢磨した時は、
そういう雰囲気はとにかくすごかった。

MzCOFFEEラボの企業理念にもなっている
「コーヒーと遊ぶ」っていうのは、
もともと丸山健太郎さんに言われた言葉で。

そうなんですか。


「松本くん、最近コーヒーと遊んでる?」
ってよく訊かれていました。

コーヒーと遊ぶ。

それはつまり、
「ちゃんと勉強しなさいよ」ってことだったんです。

なるほどなあ。
0.1グラム単位で粉を調節するなんてのは、
遊んでるようなもんですよね。

もう遊びでしかない。
みんなで真剣に遊んでた感じです。
当時はそれが私にとっては面白くて。

誰が淹れるエスプレッソが一番美味しいか、
みたいな勝負です。
でも、それぞれが思う理想形が違うので、
酸味がすごい立ってる人もいれば、
ちゃんと深みを出す人もいて。

本当にそれは、すごく好きなんですね。
好きで、好奇心がないと遊べないですもんね。


みんな好奇心の塊みたいなものだったので。
私がいた頃の丸山珈琲は、
日本チャンピオンもトップバリスタも何人もいて、
日本のトップがほぼ集まってた会社でしたね。

めちゃくちゃ最高の環境ですね。

そうですね。
その時、一緒に学べたメンバーの一人ではあるので、
抽出に関しては、胸を張って間違いなく、
最高の環境にいたと思います。

抽出に関しては、ということは、
コーヒーには他のジャンルもあるんですか?

そう、コーヒーって抽出だけじゃなくて。
たとえばナカジさんは焙煎から入っている方ですが、
私は丸山珈琲でずっと抽出を専門にやってきました。

もともとその、
抽出の道に行きたいっていうのは、
松本さんの希望だったんですか。

そうですね。
私は、学校で習った先生の、
綺麗な所作でカッコよくエスプレッソを淹れる、
あの姿に憧れて入っているので。

それで、学校を出た後に、
丸山珈琲に入ることにしたんですね。

私、丸山珈琲に入る前の面接で、丸山社長に、
今でも覚えている、すっごい失礼なことを言って。


ええ?
どんなことですか?

「丸山珈琲で働かせてください。
ただ、3年で辞めます」と。

(笑)それはすごい。
その頃は、どういう未来の計画でいたんですか?

3年後には愛知に帰って、
愛知のコーヒー屋さんの豆を使ってお店を持つ、
っていう話をしたのは覚えてるので、
そのぐらいのスパンで、
自分のお店をやるつもりではいたんだと思います。

でもよく、
面接に通りましたね。

社長はその時、
そんなことを言うヤツは信用ならんということで、
落とすつもりでいたらしいんですよ。

でも、面接のとき同席していたトレーナーが、
「いや社長、待ってください」と。
彼は面白いやつだから採りましょう、
って言って採用してくださったんです。


じゃあ、その方が面接の時いなかったら、
入ってなかったかもしれない。

確実に入ってなかったですね。
で、実際に中に入ってみたら、
学校で学んできたのとはまったく違う、
0.1グラムで変わるような職人の世界で。

その世界に魅了されて、結果、
12~3年いることになるんですけど。

丸山珈琲に入った後は、
いろいろな部門の仕事をやったんですか?

そうでもないですかね。
丸山珈琲では、いわゆるバリスタマシーンを触るまでに、
大体1年ぐらいかかるんですよ。

でも、ありがたいことに私は専門学校時代に経験していて、
人が一番少ない時に入ったので。
入った初日からお店の裏に閉じこもって、
わけもわからずずっとエスプレッソを淹れてた記憶があります。


エスプレッソを淹れるバリスタっていうのは、
やっぱりスター選手みたいな存在なんですか?

バリスタに憧れて入ってくる人は多いですね。
でも私の考えとしては、バリスタでなかったとしても、
洗い物でも、提供でも、ドリップでも、
まずそこで一番になるべき、という考えなので。

「すぐバリスタをやりたい」
っていう新しいスタッフたちが来ると、
いやいや、待て待て待て。
まずここで一番になったら絶対次に仕事が来るから、
っていう話しをします。

誰もやってないことこそ強み

実際に丸山珈琲に入って3年経った頃には、
辞めるタイミングってありましたか?


3年経った頃は、ほんとに激動すぎて、
途中で辞めるタイミングなんかなかったです。

小諸店ができた半年後に私が入ったんですけど、
その3ヶ月後には、
軽井沢のハルニレテラスができるんですよ。

ちょうどそういう、
めちゃくちゃ忙しい時期だったんですね。

ハルニレテラスがオープンしたら、
あまりにも店舗で人が足りないから、
小諸店から異動することになって。

入社の初年度にですか。

初年度というか、
それがもう、入って3か月後です。


その後は、リゾナーレ八ヶ岳と、
ハルニレテラスの店長をやって、
東信地区のエリアマネージャーをやった後、
通販事業部が立ち上がるときに、声がかかりました。

必要としてくれるのであれば、ということで、
「わかりました」と引き受けて。

店舗の現場の仕事からは、
離れることになったんですね。

そう。
でも結果、店舗から離れたことで、
やっぱり自分は接客がしたかったんだな、
ってことに気がつきましたね。

私がハルニレテラスが好きすぎて。
たぶんちょっと離した方がいいだろう、
って感じだったんだと思います。

そんなに好きだったですか!

多分、誰よりも好きで、
誰よりも活気あふれるお店にできる自信があったんです。
今でも自分でもう一度やりたいぐらい。


なんか、ここまでの歴史を聴いていると、
流れに乗ってる感じなんですね。
来た流れに逆らわないというか。

そうですね。
基本的には流れには逆らわない。
なすがまま。

計画をすごく立ててからやるタイプではないですか?

いつも、だいたい大まかな方針だけで。
海外に1ヶ月行くとかでも、
宿も何も取らずに行っちゃいますし。

なので、よく注意されるんですけどね。
ちゃんと計画を立てなさいと。

でも、なんとなく思うんですが、
松本さんがそういうタイプの人じゃなかったら、
今の「MzCOFFEEラボ」の雰囲気にはならなかった気がするんです。


かっちり決めずに、
流れに乗るっていうスタンスだから、
来た人が自由に楽しめるんだと思います。

本当ですか。
それは嬉しいですね。

松本さんの中で、まだこの先、
もっとコーヒーを極める余地っていうのは、
残ってるんですか?


全然残ってますね。
その「極める」が何なのかっていうのはありますけれど。

一緒に大会出てた仲間たちは、マシンの方で、
より美味しいエスプレッソを出すための抽出効率はなにか、
とかっていう極め方をしてるんですよ。
ですけど、私はもう、それはいいかな。

コーヒーを極めていくんだったら、
焙煎の方をもっとやっていきたいですかね。

松本さんは、機械じゃなく、
手回しで焙煎をやってるんですよね?

そう、焙煎機もエスプレッソも、
大がかりなマシンを入れるには、
すっごいお金がかかるんですよ。

それを打破する方法がないかなって考えた時に、
手回しの焙煎機と、手動のエスプレッソマシンで
どこまでやれるかなっていう、
ちょっと実験的なところもあり。

そうか、そう言われてみれば、
このお店の中の道具は、みんな手動ですね。

焙煎に関しては、
手回しでそんなにやってるのはちょっとおかしい、
って言われるぐらい回してますけど。


ただね、手回しでもここまでできるっていうのを、
示せてはきたかなっていう感じがあるので。

焙煎の量が増えてくると大変じゃないですか?
僕には想像もつかないんですけど、
結構な量を毎日やってらっしゃるんですよね。

そうですね。
1番多い月で150キロ焼きましたし、
平均的には月100キロ前後ぐらい。

それだけの焙煎をするには、
だいぶ時間がかかりますか。

毎日だいたい3時間から5時間ぐらい、
ずっとつきっきりです。

うちはもう本当に、子供たち中心なんで、
日中はお店をやって、夜に子供たちを寝かしつけた後に、
最近は30分とか仮眠を取って、9時半ぐらいにスタートして、
夜中の1時までに終わればラッキーぐらいの感じです。
多い時だと3時ぐらいまでやって。

で、6時に起きて支度をして、
っていう生活リズムですね。


それはもう、完全に想像を超えてました。
焙煎の部分は、もし機械化していたら、
任せちゃえるもんなんですか。

任せちゃえるというよりかは、
焼ける量が変わってきます。
今の焙煎機だと1回で500グラム焼けて、
大体1日5キロ分を焼く感じなので、
単純計算で10回ちょっとぐらいです。

焙煎機のまわりは60度近くになるんで、
夏は汗だくになりながら。

すごいですね。
それだけの量の焙煎を、
毎日毎日夜中にやるって。

そんな量を毎日やってる人なんて
いないでしょう?

聞いたことはないです。
そんな人はいないってよく言われるんですけど、
むしろいないって言われると嬉しくなっちゃう。


ぶははははは!
嬉しくなっちゃう。

他にいるんだったら、いっそもう、
でっかい機械に変えちゃおうかなと思ってるんですけど、
いないんだったらそれはそれで面白いよな、とか。
要はね、誰もやってないってことは、
それが私の強みでもあるわけじゃないですか。

たしかに!
おっしゃるとおりですね。

皆さんにはね、
その生活を続けてたら体調崩すから、
ちゃんと機械を導入しなさいって言われるんですけど。

それはなんなんでしょう。
手回しで毎日やってるってのは、
品質を落としたくないからなんですか。

品質だけではないです。
機械で焙煎しても、そんな悪いわけではない。

それなのに毎日そうやって、
自分でやってらっしゃるってのは、
いったい何を・・

(笑)ほんとですよね。
自分でもいまいち分かってないですけど。

現実的な話を言えば、
さっき言ったみたいに、
マシンを入れるには莫大な費用がかかる、
っていうのは1つあります。

でも、なんだろうな。
うまく言えないですけど、
皆さんが思ってるほど私は苦じゃないですし。
バケモンみたいな体力はあるんですよ、きっと。


体力勝負ですよね。

ほんとに過酷なんで。
普通の人だったら30分もこの部屋にいたくない、
って思えるぐらい気温が上がるんです。
そこにね、夜中に作業をしながらずっといるわけ。

いや、もう想像がつかない。
お店にいる時にはその姿が見えないので、
どんな感じなのかも想像つかないですけど。

そうですよね。
それを見せたところでっていう考えもあるんで。
2時間とかしか寝てない日なんかざらですけど、
割りとお店が始まってしまえば、
なんのことなく普通にいられる。

ここはここで立ち仕事ですし、
ほんと、すごい体力ですね。

多分すごい体力なんだと思う。

自分の後継者のことって考えることありますか?
松本さんは、まだまだ現役ですけど、
いずれは体力的にもだんだんと限界がくるじゃないですか。


全然考えてないです。
もう終わりだったら終わりでいいかなぐらい。
子供たちが、もしやりたいって言うんだったら、
考えなくはないですけど。

セミナーとかも始めたんで、
教えてくださいっていう方がいれば、
何も隠さず、全力で全部教えますし。

そうですね、
セミナーに参加した時に思いましたけど、
松本さんって全力で教えますよね。

教えて真似されたらどうしようっていう人いるんですけど、
真似されたところで、
その人が出す雰囲気とか空気感は違うので、
必ず違うお店になるはずですし。

コーヒーで言えば、場所によって水も違うので。
そこからの微調整っていうのはやっぱり、
ご自身でやっていかないといけない。

それは、お店を持つプロの方々にとっては、
そこからが自分の味を出す作業なので。

私はベースは教えますが、その先の微調整とかっていうのは、
やっぱりご自身でやる必要があるかなという気はします。


「コーヒーで遊ぶ」ともう一つ、
「コーヒーで結ぶ」という言葉がありましたが、
それは、どういう働きかけをするつもりでいたんですか。

私にとってのコーヒーって、脇役なんです。
脇役ですけど「名脇役」みたいな。

おおおお。

ケーキがあったら、ケーキの脇役ですし。
友達同士で飲んでたら、そこでの交流の脇役ですし。
メインになることってあんまりない。

確かにそうですね。
単体で主役になりえる、お肉とかとは違って。

そうなんですよ。
で、コーヒーの役割を考えると、
人とか物とかを結んで、
繋がりをとりもつのにちょうどいいというか。


なるほど。
面白い!

だから、このお店で言うと、
お店の中での会話の脇役がコーヒーであって。

清水さんと今お話しをしている、こういう縁もそうですけど、
やっぱりコーヒーが通じて結ぶ縁ってたくさんあるので。

私にとってはそういう日常的なものなので、
コーヒーと遊ぶし、コーヒーで結んでくっていう、
そんなイメージを持ってます。

本当に、松本さんとも、
コーヒーが繋いでくれた縁だと思っています。

今日はたくさんお話を聞かせてもらって、
ありがとうございました。
(2024年6月 軽井沢「MzCOFFEEラボ」にて)

清水宣晶からの紹介】
松本さんは、軽井沢の別荘地にある、山小屋のようなお店で、テイクアウト専門の「MzCOFFEEラボ」というコーヒー屋を営んでいます。
お店には、入れ代わり立ち代わりで、いろいろな人がコーヒーを買いに来て、松本さんがコーヒーを淹れるのを待つ間、その小さな空間に居合わせた人同士が、とても楽しそうに話しをしているのが日常の風景です。

僕は「MzCOFFEEラボ」にいくたび、ほぼ必ずいい出会いがあり、そのことでどれだけ自分の幸福度が上がったか知れません。
なぜこんなにも素晴らしい空間が生まれるんだろうと考えたとき、やはりそこには松本さんの柔らかい雰囲気と人柄が大きな役割を果たしていることは間違いありません。


僕が、人にお話しを聞きに行くときの手土産にするための、オリジナルブレンドのコーヒーを作りたいと考えていた時に、相談に乗ってもらったのも松本さんでした。

普通のコーヒー屋さんでは、そんな少ない量のブレンドにはあまり対応をしないと思いますが、「MzCOFFEEラボ」ではむしろ積極的に、来た人ひとりひとりが求めている好みの味に合わせて、オリジナルのブレンドコーヒーを作って淹れるということもしています。

恐ろしく手間がかかることですが、松本さんは手間の大小とは関係なく、いかにコーヒーを楽しんでもらえるかという物差しで考えています。
そこには、一本筋が通った美学があり、松本さんはまぎれもなく、「コーヒーと遊ぶ」ことをやり続けている人なのだと思います。

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